やじうまゲームニュース
 
クリアしてしまった!文句なしの★×5『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』

2010.02.17

『HEAVY RAIN -心の軋むとき-』公式サイト
 

 「はやくも2010年の最高傑作が登場してしまった! 文句なしの★★★★★」。

 
そんなアメリカ映画のキャッチコピーを拝借したくなる気分。とんでもないアドベンチャーゲーム『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』(以下、『HEAVY RAIN』)が、間もなく日本上陸する。


 本作は、2005年にシネマチック・サイコスリラー『Fahrenheit(ファーレンハイト)』を発表したことで欧州ゲームシーンの最前線に躍り出た、フランスのゲーム開発会社Quantic Dream社が開発を手がけている。

 物語の舞台は、雨量の多いアメリカ東海岸らしき「とある都市」。この街では「折り紙殺人鬼」と呼ばれる連続殺人犯が暗躍しており、過去数年間で何人もが誘拐され、殺害されている。毎度、溺れ死んだ亡骸のそばには「折り紙」が置かれていることから、残酷な手口に似つかわしくない通り名が定着している。
 主人公は4人の男女。彼らはこの「折り紙殺人鬼」の事件に関わったことで、それまでの人生を一変させられる。もちろん、幸せな意味ではない。父として、記者として、捜査官として、探偵として、「折り紙殺人鬼」が新たに誘拐した10歳の少年をめぐる4人の物語が幕を開ける――。


 筆者は事前にサンプルROMを借り、本作を遊ばせてもらったわけだが、実は2月最初の土日を丸々費やして、エンディングのひとつまで一気にプレイしてしまった。発売前に掲載するレビューでエンディングまで遊んだのは初体験。それほど楽しめた。

 
『HEAVY RAIN』では、緻密さと豊かな感情を併せ持つシナリオが巧みに語られていく。しかしながら、ここでその“あらすじ”的なレビューをするのはあまりに野暮! というわけで今回の「やじうまゲームニュース」では、できるかぎり物語の本筋にはふれず、4つの要素に区切って本作の魅力をお伝えしていこうと思う。

※各写真をクリックすると、拡大したものを見ることができます

綿密なプリプロダクションの賜物:グラフィック

 
昨年6月の「E3」。ソニー・コンピュータエンタテインメントアメリカのブース2階に設置されていた、本作のディスプレイを目にした瞬間のおどろきは、今でも思い出す。

 “うす暗い路地に雨が降り注いでいる”だけの映像なのだが、描写があり得ないほど真に迫っていた。雨が降り、地面にあたり、反射し、流れていくという水の精密な描写が、秒間にして数え切れないほど行われている。陰影表現も絶妙で、ゲーム画面を見るというよりは、窓から雨模様の路地裏を眺めている気分になる。液体の表現力は、しばしばハードの性能を表現するために用いられるが、PS3もここまで来たか! という感じだった。
 そして画面上部には、白スキで「HEAVY RAIN」という文字。つまり、筆者はタイトル画面だけで驚いていたわけで、階段からディスプレイを凝視するスキンヘッドの東洋人を、セキュリティが怪しんでいたのも仕方ない。


 もちろん、ゲーム本編における映像のクオリティも高水準である。本作のエグゼクティブプロデューサー・Guillaume de Fondaumiere氏が来日した際に、精密な映像の制作方法を訪ねた。氏が語ってくれたところによると、たとえば建築家の主人公・イーサンが住むデザイナー住宅は、実際にプロが作った設計図に基づいて制作されているそうだ。室内のシーンでも、オブジェクトやキャラクタの配置、カメラアングルなどが絵コンテによって明確化された上でグラフィックにおこされているらしい。

 つまり、映画製作におけるプリプロダクション(撮影前の準備作業)を経て、『HEAVY RAIN』の映像は作られた。映画関係者からもアドバイスを受けたという映像の数々は、映画にも引けを取らない没入感があるし、アメリカの都市部を訪れたことのある方なら「旅行でいったな、こんな場所」と懐かしさを感じるかもしれない。


 映画では役者が担うキャラクタたちの描写も、表情から動作までモーションキャプチャーで取り込まれており、場面によっては不快に感じるほどの生々しい。キャラクタの表情に限って注目したいなら、チャプター遷移画面で表示される主人公たちの顔グラフィックに注目してみてほしい。家庭用ゲームでは屈指といえるテクスチャー技術を体験できるはずだ。


 ここまで触れた映像の制作過程に関しては、ゲーム本編を進めていくことで解除される「特典」で鑑賞することが可能だ。収録された絵コンテや撮影現場のメイキング映像を見ることで、より本作の世界観に浸れるだろう。

もどかしいのがイイ:操作性

 
『HEAVY RAIN』でのキャラクタ操作は非常にシンプル。左スティックで視点を変更し、R2ボタンで前進。このふたつのキーだけで移動がまかなわれている。

 注目したいのは、イベント時の操作だ。指示されたボタンを正しく押すことで進行していくのだが、「大岩が落ちてきた! 右に避けろ = 右方向キーを押せ」という一昔前のインタラクティブADVのような単純な仕様ではない。各ボタンのアナログ感度による強弱や押す間隔、複数ボタンの同時押しによる組合せ、さらには「SIXAXIS」による傾き感知も取り入れ、アクション場面では絶え間ないスリルが味わえる。

 具体的な例を挙げると、ハイウェイを逆走するシーンではコントローラを傾けることでステアリングを操る一方、ボタンを押すタイミングで“オレンジのジャグリング”なんていう悪ふざけをしてみたり。そんな反射神経がものを言いそうな場面もあれば、コントローラをゆっくり左右に揺らすことで赤ちゃんを寝かしつけるという、おだやかな動作も取り入れられている。
 主人公たちの生死を分かつ場面はもちろんエキサイティングで楽しいが、個人的には主人公・イーサンを治療するシーンに注目していただきたい。軟膏、抗生物質、包帯、絆創膏…。火傷に骨折、ガラスによる裂傷まで負った満身創痍なイーサンを治療するには、どんな手順を踏むべきか。どの程度の力加減で軟膏を塗れば良いのか。あ、もしかして先に絆創膏を貼るべきだったのか―!? といった具合に、人命を握らされるとてつもない緊張感を体験することになるだろう。


 再び、基本操作に戻りたい。『HEAVY RAIN』の操作性はシンプルで扱いやすいが、いわゆるサードパーソンシューティングほど細やかな操作性を実現しているのかといえば、ちがう。特にゲーム開始直後は、もっと移動に使えるボタンが多ければ! と、もどかしく感じることも多いはず。加えて、主人公のひとり私立探偵・シェルビーは、ベルトの上に腹がのっかった体でもっさり歩くし、イーサンは先ほど説明した怪我を負うと足を引きずりながら歩いていく。正直、遅い。
 つまり、ゲームキャラクタとして理想的な動きを、主人公たち操作キャラクタは再現してくれず、思い通りにいかない。だが、それが良いなと思う。

 本作で意図されたテーマとは別に、筆者が物語の端々で感じたのは「理不尽さ」だ。得体の知れない連続殺人鬼に人生を歪められるなんて、理不尽そのもの。主人公たちは「理不尽さ」に屈服させられているわけで、そんな理不尽すぎる物語には、多少もどかしく感じるくらいの操作性がリアルだし、何より感情的にしっくりくる。主人公たちの焦りや悲しみが、コントローラから伝わるような気さえするのだ。


“日常生活の陰”まで表現する:演出

 普通はゲームどころか、映画でもカットするだろうというシーン。筆者が言いたいのは、主人公・イーサンが息子のショーンと自宅で過ごす場面のことだ。

 イーサンは数年前の悲惨な事故が原因で妻と離婚、現在は小学校に通うショーンと父子ふたりだけの生活を送っている。イーサンとショーンの関係は事故がしこりとなって上手くいっておらず、会話も必要な事柄しか交わされない。


 プレイヤーが操るイーサンは、自宅でショーンと過ごすことになる。父親に頑なな態度で接するものの、ショーンはまだ10歳の男の子。不器用な男手ながら色々と面倒を見てあげなければならず、宿題を教えたり、おやつをあげたり、眠るときにクマのぬいぐるみを抱かせてやったり…。ショーンの機嫌をとるために宿題をせずにテレビを観てもいいと許すか、おやつもお菓子より健康的な果物を与えた方が良いかなど、実際の子育てでも遭遇しそうなジレンマを体験する。

 やがて夕食の時間帯に。ショーンに食事をさせるのだが、イーサンはろくに料理もできないので、選択肢としては冷蔵庫の中のできあいの料理を温めることになる。手軽な冷凍ピザか、それよりは多少健康的なチキンのTVディナーにするか?
 筆者はプレイ時、つけあわせの野菜もあってピザよりは食育的に幾分マシかと思われるTVディナーを選択。箱ごとレンジに入れて温めると、箱をひっくり返してプレート皿へ雑に盛り付け。空箱はシックにポイッと投げ捨てる。このあたりの動作のディティールに、子育てに不慣れな男の不器用さがにじみ出ていて、哀れを誘う。


 そして冒頭で触れた、映画でもカットするだろうというシーン。うす暗いキッチンのテーブルについてTVディナーを黙々と食べるショーンを、イーサン=プレイヤーは手持ちぶさたに眺めるしかない。食器の音だけが響き、会話はなし。ショーンは皿しか見ていない。そのうち居たたまれない空気に耐えられず、冷蔵庫を開いてオレンジジュースを取り出し、口を直につけて飲んでみる。飲み終えてテーブルの方を振り返ってみると、食事を終えたショーンの姿はなかった。
 食事中のイーサンとショーンの間に漂う気まずい空気。ひとつの会話もなく食事を終えたショーンに、取り残されるイーサンの寂しさ…。人間ドラマを題材とした映画でもカットされるような、あまりにリアルで耐えがたい孤独感まで、『HEAVY RAIN』は表現していた。

 映画は観客に対して一方通行で提示される映像だから、不必要に不愉快なもの、無駄なシーンはカットしてシェイプされる。一方で、ゲームにはプレイヤーが能動的に選択する双方向性があるために、ここで紹介したような日常生活の陰も表現することが許される。
 『HEAVY RAIN』は日常生活の陰もひとつのディティールとして描くという姿勢をとっており、それは他の多くの場面でも同様だ。そんなゲームにおいて徹底的に写実主義でいくという演出方法が、本作の世界観とシナリオに驚くほどの深みをもたらしている。


貫いたテーマ、システムとの見事な融和:シナリオ

 できるかぎり物語の本筋にはふれず、と冒頭で断っておきながら恐縮だが、やはり物語を重視した作品を紹介するにあたり、シナリオを無視するのはちょっと乱暴すぎる。ここでは最後に、『HEAVY RAIN』が扱うテーマに少し触れてみたい。

「本作のテーマは“愛”です。大切な人を救うためにどこまできるのか、どれほど愛は深いのか、という」

 今回も何回か引用させていただいた、Guillaume de Fondaumiere氏がインタビュー時に語ってくれた本作のテーマだ。このテーマは、やんわりとゲーム中に表現されているものではなく、プレイヤー自身に重大な選択として突きつけられる。ここで言う「選択」は、明確にゲームシステムとして組み込まれており、シナリオとゲームシステムが融和していることこそ名作の条件と信じる筆者としては、本作の在り方にとても感動した。

フランス・Quantic Dream社のCO-CEO、『HEAVY RAIN』エグゼクティブプロデューサーのGuillaume de Fondaumiere氏

 エンディングまでプレイした今も、結局『HEAVY RAIN』のシナリオにおいて何が正しかったのか、筆者は明言できない。何がしかの答えを見つけるというよりは、主人公たちの人生を垣間見たというのが、本シナリオに対する印象だ。
 「この作品を手に取ってくれる一人一人の方に、何かしらの投げかけができることを願っています」と、Guillaume de Fondaumiere氏はインタビューを締めくくった。その投げかけに対する答えは、おそらくプレイヤーによって異なるのだろう。

 ひとつ確かなのは、『HEAVY RAIN』が近年稀に見る傑作であり、アドベンチャーに類するジャンルでは新境地を切り拓いたということ。今のところフォロワーは思い当たらない。あくまで私見だが、プレイステーション3はこういう作品を生むべく存在するハードだと思う。次の「E3」でも、本作のような出会いがあることを心から願うばかりだ。

(ジーパラドットコム編集部/広田貴久)




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『HEAVY RAIN(ヘビーレイン) -心の軋むとき-』
ハード: プレイステーション3
ジャンル: サイコ・サスペンス
メーカー: 販売:ソニー・コンピュータエンタテインメント
開発:Quantic Dream(フランス)
発売日: 2010年2月18日(木)予定
価格: 5,980円(税込)
プレイ人数: 1人
CERO審査: 「D」(17歳以上対象)

(C)QuanticDream/Sony Computer Entertainment Europe. Published by Sony Computer Entertainment Inc. Developed by QuanticDream.

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