水口哲也氏が語る『N3』、そして次世代のゲームとは!?

2006/04/20

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  いよいよ発売日を迎えたXbox 360用ソフト『NINETY NINE NIGHTS(以下、N3)』。深いテーマ性を持つシナリオとともに、大軍勢を蹴散らすという爽快感を持った意欲作だ。日本のキューエンタテインメントと韓国のファンタグラム社が共同開発したということでも話題の本作品。今回はセガ時代から『スペースチャンネル5』などの様々なゲームを手がけてきたキューエンタテインメント 代表取締役CCO・水口哲也氏に『N3』の魅力をうかがった。シナリオ面、ドラマ性に特に注力したという水口氏からは、Xbox 360や『N3』に留まらず、様々な次世代機への可能性が語られることとなった。

『N3』で目指した次世代のゲームとは?

ジーパラ:今回『N3』では韓国のファンタグラムさんと共に制作に当たられたということで、まずはその感想や、制作現場の雰囲気などからお聞きしたいのですが。

キューエンタテインメント
代表取締役CCO
水口哲也 氏

水口氏:非常にプロフェッショナルに仕事をしていただいたので、逆に日本の会社と仕事するよりもやりやすかったかも、というのが僕の率直な印象なんですね。もちろん、言葉も日本語と韓国語で違いますし、初めはいろんな不安がありました。もしかすると相容れないものが出てきてしまうのではないか、とかね。でも、ゲームの面白さに対する価値観というものがすごく似てる……というかほとんど同じだったんです。それがわかった瞬間に「ああ、言葉の違いはたいした問題じゃない。同じゴールに向かっていけば楽しいものができるな」と思えたんです。それは早い段階、サンユン・リーさん(ファンタグラム社CEO)と話したときによくわかったんです。『N3』は15~6ヶ月かかったわけですが、それだけの時間をかけて、韓国に行ってでも一緒にモノを作る価値があるものだったと言えます。僕はそれだけの時間、半ば異国で生活をしながら作業するということが今までなかったし、これだけ大きいプロジェクトのプロデューサーをやるということもなかったわけです。複数の大きな会社が絡み合っていますし、本当に初めてづくしだったんですけど、マイクロソフトさんのマネージメントもすごくよくやってくれて、作ることに集中できたという感じでしたね。クリエイティブ面に集中して動けて、本当にいいプロジェクトだったと思います。

ジーパラ:以前、サンユン・リーさんにお話をうかがったときに、もう少し時間があれば……という話が出たのですが、そういった面での『N3』の開発の反省や、感想はありますでしょうか。

水口氏:そうですねぇ。だいたいどのプロジェクトでも最後はもっと時間があればよかったなと思うんです。それは僕も変わらないですね。ボリュームに関しても、一番最初に構想するボリュームって、ものすごく大きかったりするんですね。そこから時間をかけて、少しずつ削ぎ落としていって、ゲームの完成と共にそのかたちが整ってくるということが多いんです。最初に想定したボリュームで作るとあまりにも膨大すぎて、いくらプレイしても終わらないものになってしまうんじゃないかと思うんです(笑)。だから、削ぎ落としたというのは、ある意味予定通りかもしれません。時間があれば盛り込みたかった要素としては、もっとキャラクタの感情を引き出してドラマ感を出したかったとか、ひとつひとつのクオリティを積み上げていきたかったとか、そういうことはものすごくたくさんありますけどね。

ジーパラ:ドラマ性という話が出ましたが、それが『N3』の注目点だとうかがっています。どのような点に気をつけて構成していったのでしょうか。

水口氏:僕らには、マイクロソフトさんからオファーがある前から、“何”が次世代機のゲームなのかという議論があったんです。まず、『N3』というのはドラマとアクションゲームの融合をやりたいね、というところからスタートしています。つまり、生理的な満足感を得るゲームと、感情を揺さ振られるような体験としてのドラマ、これらを高いレベルで反応させるような、新しいエンタテインメントを目指していくということです。それが次世代機で作るゲームのひとつの答えではないかと考えたんです。もちろんそれがすべてではないのですけれどね。サンユン・リーさんと最初にその話を……かなり早い段階で確認して、ゲームとしての完成度を上げることはファンタグラムの力を十二分に振るっていただこうと。サンユン・リーさんはアクションゲームをものすごく研究していらっしゃいますし、すでに『キングダムアンダーファイア』など、ファンタジーを舞台にした大軍勢を扱うゲームを作っているじゃないですか。そこはもう彼のことを信用して、逆に思いきってやってもらったわけです。彼の考えるボーン(骨)の部分と、僕のマッスル(筋肉)の部分を融合させていくという感じでしょうか。例えばシナリオ、世界観、キャラクタのベーシックコンセプトをサンユン・リーさんのところに持ち込み、彼らと一緒にそれらを作り上げながら、ドラマ部分のモーションキャプチャーを始めとする各種演出からシナリオのチェックまで、最終的な“絵”に仕上げていくという行程を、僕はかなりはり付いてやっていたんですね。例えばゲームのムービー関係、ボイスアクターの演出とかそういうものも含めて。サンユン・リーさんがゲームの骨格を作って、僕はその骨格に見合うような筋肉の部分をよりゴージャスにしていく……なるべくそこに意識を集中していました。とにかく、ゲームの体験をより増幅させる、よりドラマティックにするために何をすればいいのかということを考えてきたんです。

ジーパラ:なるほど。例えばそれはゲーム中では具体的にはどのようなところでしょうか。

水口氏:うーん、そうですね……。『N3』は戦争をテーマにしたゲームですよね。戦争のゲームがハイデフになったらどうなるのか、というのを考えた場合、血がリアルに噴き出して、首がリアルに飛んでいく……それがリアルな戦争ゲームなのか? 僕の場合の答えは「NO」です。戦場で掲げられる正義云々もありますが、例えば自分に守りたい人がいて、それで戦場に向かっていくという人も多くいるわけじゃないですか。そこには多分いろいろな葛藤もあり、いろんな愛がある。その葛藤や愛というものがドラマだと思うんですよね。それぞれのキャラクタにはそれぞれの運命や背負っているものがあるはずです。例えばある者は兄弟愛を描くかもしれないし、ある者は大人の恋愛を描くかもしれない。ある者は師匠と弟子の師弟愛、そして家族愛といったもの。そういうものを通じて、各々のキャラクタにドラマを付け加えていきつつ、各キャラクタをプレイしていくと、その世界の中で何が起こっているのかがわかっていく……。『N3』の世界で起こっている戦争、正義、そして99の夜とは何か、そういうことがだんだん明らかになっていくというつくりにしたいと考えたんです。
  このインスピレーションというのは大きくふたつに分けられるんですが、ひとつは55年前の映画、黒澤明監督の「羅生門」。もうひとつは9・11事件以降の様々な戦争報道。いろんなメディアの報道のあり方というか……。そのふたつがソースなんですね。具体的にどういうことかと言うと、例えばCNNが映し出す視点というのはアルジャジーラが映す視点と違いますよね。イギリスのメディアとフランスのメディアも当然言っていることが違いますよね。日本のメディアと韓国のメディアもやっぱり違うことを言っている。それぞれの国にそれぞれの事情や立場があります。おそらく人間というのはそういうものだと思うんですよ。「羅生門」という映画はまさにその違いを上手く表現した作品で、構造的に素晴らしい映画なんですね。結局ひとつの事柄の中で、人間がそれぞれの立場で語るときって、各人が思っている印象というのも実際は非常に主観的で、客観的なものではない。これこそがドラマにできるんじゃないかと考えたんです。今回『N3』では、まず大きく分けて敵と味方、光と闇に分けています。最初、人間の戦士をプレイしていて、ゴブリンたちと戦います。さんざんゴブリンをやっつけておいて、途中でゴブリンの戦士をプレイキャラとして選択できるようになるわけです。そちら側をプレイしてみると、ゴブリンの村に人間の兵士が大軍で押し寄せてきて(ゴブリンの)一般人たちを攻撃する。その瞬間に、人間という存在がすごく悪く見えて、本当に別のスイッチが入ってしまうような感覚になります。
  この仕掛けは、アイディアの段階ではすごく面白くなると思っていました。が、同時にすごく不安でもありました。「できあがってみて面白くなかったらどうしよう」とね。しかし、完成してみて、思った通り、いや、思った以上に、これはエンタテインメントとしてちゃんと成立するものだったと自信を持てました。映画にはできないような新しい体験、勧善懲悪ではなくそれぞれの立場が持つ“すべての正義”を体験するという感覚、これこそが次世代機でできる、次世代機の解像度が可能にするドラマ感。そういうことなのかなと思ったんです。
  これを、旧ゲーム機で作ろうとしても、そこまでの映像が描けないんじゃないか、伝わらないんじゃないかと思うんです。伝えるためにはキャラクタひとりひとりの演技、例えば目の表情、心理的な動揺、絶叫、そういう葛藤や感情が表情に出せることが必要不可欠だった。その表現力がなければ、見ていてシラけるだけの映像になってしまうかもしれませんからね。その素晴らしい表現力を持った映像を今回、Xbox 360というハードでやらせてもらえたというところでしょうか。

ジーパラ:映画ではできない、ゲームならではのエンタテインメントがやっとできるようになったという感じでしょうか。

水口氏:そうですね。コンセプト自体は昔からあったと思うんですよね。それは先ほども説明した「羅生門」の中にもはっきりとあって、ただ、それは映画なので、1本の線としてのかたちになっていますよね。じゃあその登場人物それぞれをプレイさせてあげちゃおうと。そうなったときにどういう風に結果が変わるのか、どんな結末が待っているのか、どんな印象になるのか、それはゲームだからこそ実現できる体験になっていると思いますね。


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