サイバーコネクトツーが製作した、全国のテレビ東京系列で放送中のTVアニメ「NARUTO-ナルト-」をモチーフにした
PS3向け忍道対戦アクションゲーム『NARUTO-ナルト- ナルティメットストーム』(以下、『ナルティメットストーム』)。
同作は、原作でお馴染みのうずまきナルト、うちはサスケといったキャラクタ達が戦いを繰り広げていくという内容で、まるでTVアニメーションのように滑らかに動く美しいグラフィックに注目が集まった。
そんな『ナルティメットストーム』にまつわるゲーム制作のノウハウや、背景、エフェクトなどの制作技術に関して、グラフィック関連の勉強を進める学生向けのセミナーが、2009年10月2日(金)に開催された。
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| 会場となった「ベルサール神保町」での、セミナーの様子 |
今回のセミナーに登壇した、サイバーコネクトツーのディレクター・下田星児氏 |
※写真をクリックすると、拡大したものを見ることができます
会場では、サイバーコネクトツーのディレクター・下田星児氏が登壇。下田氏は会場を訪れた学生に向けて、『ナルティメットストーム』に関する製作技術などを講義した。今回、その詳細をお届けしていこう。
| アニメとゲームの境界をなくす 「超シネマ型次世代アクション」 |
下田氏は講義の初め、本タイトルにおけるプロジェクトコンセプトについての説明を昨今のゲーム市場を交えながら行った。
まず、世界市場において売れているジャンルに“スポーツ・戦争・映画を取扱ったもの”であると説明をし、模倣して後追いすべきかという疑問には、世界で勝負する為には、後追いでは勝てないという回答を持っていると話した。
模倣ではなく、我々日本人の強みであり、世界に誇れる文化でもある、アニメ産業や漫画産業をゲームと融合させることで日本人にしか作れない作品を作ろうと掲げたコンセプトが、“アニメとゲームの境界をなくす超シネマ型次世代アクション”であると、下田氏は説明する。
続いて下田氏は、『ナルティメットストーム』を制作するにあたってのプロジェクト体制について説明した。下田氏はまず、プロジェクトコンセプトを実現する為にどのような技法が必要かを10名ほどで半年かけて行ったと述べ、「制作の初期段階で方針を固め、後はその後のフェイズごとに人数を増やし、徐々に開発を進めていきました」と話している。
「研究開発」の工程を終えた後は、ゲームの各要素を固めたり、プレイヤーキャラクターのアクションの量産を行ったとのこと。
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| 初めは10名体制でスタートし、最終的に6倍以上の人員に増員して、制作が進行していったという |
また、本作の制作において掲げられたコンセプトは“CGっぽくないCG”を作り出し、アニメの作画のイメージを重視する手法を取ることだったという。
例えば、キャラクタの顔に影を現実の日の当たり方と同じようにつけるとかたい印象を与えてしまうので、通常よりも薄い影を付けることで、より見た目が良くなるという手法などが取られる。
ほかにも、衣装の色が派手になりすぎたり、髪の毛の形状が複雑になることを避け、見た目のイメージを重視させたことも明かされた。
“CGっぽくないCG”の具体例としては、登場キャラクタの1人であるロック・リーに関した描写が挙げられている。ロック・リーはハイキックを繰り出す瞬間、足が勢いでグニャっと曲がる描写が織り混ぜられている。この描写は、人間の構造上起こらないことなのだが、TVアニメなどでもよく用いられる表現技法であり、CGの持つ特有の固さを感じさせない要因の1つとなっている。
ほかにも、主人公のナルトが画面に向かって走って来た後、大きく手を広げるシーンは、通常では画面の大部分に空きが出てしまい、迫力が無くなる。そのため、本来よりも手の大きさを拡大し、派手なインパクトを与えているのだという。
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写真のように、ロック・リーの足がグニャっと曲がっている
(C)岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ
(C)NBGI |
さらに、移動速度が非常に速いため、キャラクタの動いた跡に影のようなものが現れる手法が、多くのTVアニメと同じく本作『ナルティメットストーム』でも用いられている。これは「アニメブラー」と呼ばれる表現で、元々開発段階で現れてしまったバグだったという。しかし、その表現がアニメ的で格好良かったので、意図的に付けられるようになったとのことだ。
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足に表示されている黒い影のようなものが「アニメブラー」だ
(C)岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ
(C)NBGI |
| 背景、エフェクトにアニメ的手法の“手描きタッチ”を採用 |
背景の描写に関しては、手描きのタッチにこだわって作られている。下田氏によると「他社と同じ技法を用いて、同じような見た目の背景を作ってもあまり意味は無い。そこで、サイバーコネクトツーが最も得意とするもので勝負するべきだという考えがあって、アニメ的手法である“手描き”のタッチにこだわって作っている」とのことだ。
本作の背景描写は、シルエットを綺麗に見せることで、遠くから見ても『ナルティメットストーム』の背景だ、と判るように印象的なものを作成。複雑な描写はあえて行っていないという。
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| こちらは小川が流れる河原における背景 |
どこのパーツにどれだけポリゴンを用いるかも細かく計算されている
(C)岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ
(C)NBGI |
サイバーコネクトツー社内における制作現場の様子。専用のツールを用いて、絵を描くようにグラフィックが作成されている |
また、ゲーム中に各キャラクタが使用する「忍術」のエフェクト表現に関しても手描きエフェクトが用いられ、より動きをおもしろくする工夫がなされているという。
例えば、サスケが使用する炎の弾を打ち出す「火遁・豪火球の術」については、パーツ内に「常にカメラの方向を向く」という処理がなされたものがあり、どの方向、どの位置から見ても綺麗な炎に見えるように工夫がなされている。
下田氏はさらに「“作り方がバレない”エフェクトを作ることが大事。クリエイターが見たら、どんな手法を用いて作ったか一発で判ってしまうような手抜きのエフェクトは、動きに面白さも感じられないし、プレイヤーを楽しませることもできない」と話している。
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| エフェクト1つずつに様々な工程を用意し、いかにアニメ的手法にマッチしたものを作り出すかが考えられている |
炎のエフェクト1つとっても、周囲の風景をゆがめるものや、めらめらと揺れるものなど様々なパーツが存在する |
ゲーム中に登場する「忍術」や「奥義」の映像を制作する段階としては、まず「文字コンテ」と呼ばれるテキストで、どんな技なのか、どのような映像表現にしていくのかが提案される。
その後、ディレクターのチェックを経て、絵コンテに取りかかるという。下田氏は「この絵コンテの段階で、文字コンテの際に想定していたのよりももっと時間が必要であることや、より複雑な表現が必要だということが分かります」と話す。
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| こちらが「文字コンテ」。どういう内容の奥義なのかを詳しく説明している |
「絵コンテ」では、どのタイミングでどんな映像に切り替わるかが描かれている |
続いて、TVアニメ「NARUTO-ナルト-」を制作するスタジオぴえろの監修を受けることになる。この際、「NARUTO-ナルト-」を手掛ける伊達勇登監督の好意で、さらにおもしろくなる表現方法などのアドバイスをもらえる場合もあるという。
さらに、映像のプロトタイプとなる「仮組み」を行い、その後ディレクターチェックを終えた後、本格的に映像を制作する「本組み」を行い、映像の制作を進めていく。下田氏曰く、全工程で最も時間がかかるのは「映像の本組み」の部分で、今まで積み上げてきた内容を精査しながら、しっかりと作り上げるのだという。
そして最後に、アニメの原作コミック「NARUTO-ナルト-」が連載されている「週刊少年ジャンプ」を刊行する集英社からの監修を受け、完成となる。
下田氏は、各セクションにディレクターチャックが多く入っている点について「作業を差し戻し、作り直してしまうということをなくし、作業の効率化を図るため」だと説明。版元のチェックに関しては、「ファンが期待するものを裏切らないように、間違った映像を作成しないため」と話している。
| 作業中にアニメ映像を延々と流し、作品のテンポを刷り込む |
最後に下田氏は、サイバーコネクトツー社内における作業の様子について触れた。
まず、CG制作を行う作業担当者の机には3台のモニターが設置されていたという。1台は、PS3上での動作を確認するためのモニター。1台は、実際に作業を行うためのPCのモニター。そしてもう1台は、「NARUTO-ナルト-」の映像を延々と流し続けるモニターだという。
このモニターについては「延々とアニメの映像を見続けることで、アニメ独特のテンポを頭に刷り込んで、映像のクオリティを高めている」とコメントしている。
さらに同社内には「ライブラリ」と称される資料が多数存在する。その内容とは、「NARUTO-ナルト-」のコミックであったり、「週刊少年ジャンプ」などのコミック誌であったり、一般的な映画などのDVD、ブルーレイディスクなどである。
下田氏は「この“ライブラリ”を通して、他の社員がどんなものに興味があるか、どんな作品を“良い”と思うのかが透けて見えます。どんなものに興味が持たれるかもわかり、それが作品づくりに生かせる」と述べている。
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| アニメ映像を流したり、様々な作品を社内に揃えるなど、様々な工夫が作品づくりに生かされている |
今回の講義で、同社が「NARUTO-ナルト-」をモチーフにしたゲームを制作するにあたって、CG特有の“固い”印象を極力排除して、アニメ的な手法を取り入れることに非常に力を入れていることがわかった。
また、下田氏、そして同社の代表取締役社長・松山洋氏が登壇した、
「CEDEC 2009」で実施されたセッションと比較して、今回の講義は、より技術的な苦労や工夫点などが判る内容となっていた。
もちろん今回も、同社が「NARUTO-ナルト-」を作り出すことに注ぐ情熱を垣間見ることもできたのは言うまでもない。そんな同社が今後送り出す作品には、さらにどんな技術、こだわりが織り込まれるのか、今から楽しみにさせられる。