2009年5月27日(水)、東京・渋谷にあるジーモード本社にて、同社がリリースしているケータイアプリ『勇者死す。』を手がけたゲームデザイナー・桝田省治氏にインタビューをすることができた。
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| ▲左から、マーズ代表取締役・桝田省治氏、『勇者死す。』プロデューサー・河上京子氏 |
『勇者死す。』は、魔王を討伐し、自身も力尽きてしまった勇者が5日間の間だけ蘇り、魔王がいなくなった後の世界を冒険していくという作品。フリーシナリオ制となっており、5日間のうちに魔物を討伐したり、ヒロインを助けたりと、様々なことを行える。勇者は日を追うごとにステータスが弱体化していくので、どのように行動するかを考えるパズル的要素も楽しめる作品である。
また5月25日(月)より、エンディングの追加やゲームバランスの調整がなされた改良版『勇者死す。ディレクターズカット』の配信が開始されている。
桝田省治氏は、これまで『リンタキューブ』『俺の屍を越えてゆけ』『天外魔境II 卍MARU』など、様々なゲームのシナリオやゲームデザインを手がけてきたクリエイター。『勇者死す。』シリーズでは、原案、ゲームデザイン、およびシナリオを担当している。
今回は桝田省治氏に加えて、『勇者死す。』のプロデューサーである河上京子氏にもお話を伺うことができたので、お届けする。
――『勇者死す。』の、勇者が5日間で死んでしまうという設定には、“人間の命の尊さ”のようなテーマが込められているのでしょうか?
★桝田氏
そんなにご大層なものではないですね。それもあると言えばあるけど、命の儚さ、あっけなさ、あるいは「何もしなければ何もない」とか、そういう想いは込められている。必ずしも人の命が尊いということは主張していません。
――「5日間」という期間には何か意味があるんですか?
★桝田氏
3日間でも10日間でもいいですけど、携帯アプリとしての容量的に、5日間がちょうど良かったからです。容量が変われば、期間も変化すると思います。
――携帯アプリとしてゲームを制作する場合のメリットは何ですか?
★桝田氏
まずは低予算であるということ。この作品に関していえば、低予算だからこそ新しいアイディアのゲームにできるということがあります。例えばコンシューマの作品で、30万本売り上げなければならない場合なんかは、よっぽど作りこむか、あるいはサブゲームをたくさん収録するか、大人気の漫画のキャラクタを主人公にするとか、そういう手法を取らないと無理。それが低予算の場合だと、もう少し深く、小さな市場でやれるというのは、企画者としては面白いと思います。
――勇者以外にも仲間キャラクタたちの心理的な描写を作り上げる上で、苦労された点や、こだわられた点などはありますか?
★桝田氏
「あと数日間しか勇者が生きられない」という事実がシステムとしてあって、それに合った設定の中でキャラクタに役割分担をしていったら、自然とキャラクタが生み出されていった感じです。
――勇者以外にも仲間キャラクタたちの心理的な描写を作り上げる上で、苦労された点や、こだわられた点などはありますか?
★桝田氏
「あと数日間しか勇者が生きられない」という事実がシステムとしてあって、それに合った設定の中でキャラクタに役割分担をしていったら、自然とキャラクタが生み出されていった感じです。
――好きなキャラクタはいますか?
★桝田氏
亜人種の女性・リューと、勇者に恋焦がれる王女・フローラが好きですね。彼女達は勇者と同じく、生きる目的がはっきりとしているし、そのためには手段も選ばないという部分もあるから。あと、勇者の執事であるトーマスも好きですね。彼は勇者の良いところも悪いところも全て受け止めているというところが、ボク的にはツボでした。
★河上氏
『勇者死す。』の場合だと、自分が強くなっていって仲間を護るというよりも、逆に自分が弱くなって仲間に護られるという、人の温かさを感じられるというのが特徴ですね。
――今回配信が開始された『勇者死す。ディレクターズカット』でゲームバランスが調整されていますが、これは遊びやすさをより追及したということですか?
★桝田氏
実際にネット上のブログなどを見てみると、ユーザーさんたちがボクが想定していたものとは違う遊び方をしている場合が多かったんです。というのも、勇者に無理をさせすぎると早くパラメータが下がってしまうんですが、多くのプレイヤーは勇者に無理をさせすぎて、最終的にすごく弱体化させてしまっている。その弱体化ぶりが、ボクが想定していたものよりもずっと激しいんです。そのため、もうすこし弱体化を緩めて、遊びやすさを向上させました。
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| ▲桝田氏は、ユーザーからの反響を元に、より楽しめる内容の“ディレクターズカット版”を作り上げていったと説明 |
――『勇者死す。ディレクターズカット』は、勇者が死んだ際にヒロインたちが読み上げる弔辞の種類が増えていますよね。
★桝田氏
プレイ内容によってエンディングで言葉を贈ってくれるヒロインの数も変化しますが、ボクは当初、多くのユーザーさんは1度のプレイで1、2人のヒロインにしか言葉をもらえないだろうと考えていました。ところがユーザーさんの中には、リセットやセーブを繰り返しながら、最初から4、5人のヒロインから言葉をもらえるという人が多かったんです。そのあたりの分岐を増やして、よりメッセージのバリエーションを増やしました。前のバージョンよりも、かなりエンディングの数が増えていると実感できると思います。
――勇者が死なずにエンディングを迎えたりといった発想もありましたか?
★桝田氏
もちろん考えました。勇者が死なない、勇者が魔王になってしまう、勇者が何もしないで5日間過ごすなど、色々なパターンを考えましたが、携帯アプリの容量的に、特殊な処理をしなければならない分岐などは今回削っています。キャラクタも元々は2〜3人多くなる予定でした。
★河上氏
そういえば、勇者になる“前”のストーリーも考えていましたよね。
★桝田氏
そうそう。元々の企画は、普通の戦士が色々な人の手を借りながら、勇者になっていくストーリーと、魔王を倒した後に数日間生き返るというストーリーが繰り返されるという企画でした。その時はCDロムか何かで発売することを想定していました。
――この企画が最初に立ちあがったのはいつ頃のことなのですか?
★桝田氏
13、14年ぐらい前です。プレイステーションの『俺の屍を越えてゆけ』などを制作していた頃にあたります。
――では、当時は『勇者死す。』をプレイステーションやセガサターンで出そうと考えていたのですか?
★桝田氏
ハードは特にこだわりはないですね。プレイステーション、セガサターン、あるいはドリームキャストなどで出そうという話もありましたが。
――プレイヤーが自由に行動できるフリーシナリオ制を採用した理由は?
★河上氏
「5日間で何をするか」というテーマだから、必然的にフリーシナリオ制になっていきました。
★桝田氏
元々、何回も繰り返して遊ぶゲームは、何度プレイしても新しい展開がみられるという要素を取り入れる必要があるので、今の形になりました。もちろん、ゲームに不慣れな人が、どこから始めていいかわからないと混乱する可能性もありますが、1度プレイすればコツは掴めるように仕上がっています。
――ユーザーには、どういった遊び方をしてほしいと思いますか?
★桝田氏
それはもう、好きなようにプレイしてほしいです。あえてアドバイスするなら、失敗を楽しんでください、とか、試行錯誤を面白がってくださいね、とか。色々やれば、それなりに楽しみ方もわかってくると思います。
★河上氏
プレイする時に、何人仲間を集められるかということをコンセプトにプレイするとか、それよりも葬儀で涙を流してくれる人の数を増やそう、など、プレイスタイルに応じて遊ぶ過程も変化すると思います。プレイする目的を色々考えれば、いろいろな遊び方ができると思います。
――本作は勇者が主人公の作品ですが、桝田さんが考えている「勇者とはこういうものだ」という考えはありますか?
★桝田氏
はっきり言って、ありませんね。人間味のある人であってほしいとは思いますが。スーパーマンが魔王を倒したというよりも、普通の人が一生懸命魔王を倒した方が感動しますよね。
――逆に、敵である魔王は、どういう存在としてとらえていますか?
★桝田氏
ものによりますね。『勇者死す。』に関して言えば、「そのときたまたま魔王だった」というだけです。ボクが過去に制作した作品は、悪と正義の境目が曖昧な場合が多いですね。
★河上氏
突き詰めれば、正義と悪はどちらが正しいかわからないと思います。それこそ、魔王が人々のことを考えているかもしれないし、勇者の方が自分の正義を押しつけているかもしれないし…。
――ゲームのラストシーンを勇者の葬儀で終わらせようと考えたのはなぜですか?
★桝田氏
あのシーンは、ゲームプレイの結果表示という位置づけです。あなたはこういう行動をした結果、この人物はこのように変わりました、という風に。勇者はラストシーンでは死んでいて、上空から自分の葬儀を俯瞰して見ているわけですが、その“微妙な距離感”というところに面白さを感じたんです。テキストで各人物のその後を紹介するというかたちや、小さな寸劇を積み重ねていく方法もあったはずです。でも、葬式と、それを上空から見ている勇者という、他の仲間たちと勇者との、近いけれどもすごく遠いという距離感がおもしろいなと思ったわけです。
| 勇者に“なる”続編も!? コンシューマでの展開も視野に。 |
――コンシューマで『勇者死す。』シリーズを制作する予定はあるでしょうか。
★桝田氏
出したいという話はよく耳にしますが、なかなか決まらないですね。
★河上氏
ゲームのテーマが「勇者が死んでしまう」というネガティブなものなので、少し懸念する会社さんはありますね。出せば売れると思うんですが…。
――例えばコンシューマで移植作品を発売するとしたら、どのような作品を想定していますか?
★桝田氏
システムは大体同じですが、恐らくキャラクタを増やします。さらに先ほども話した、勇者が生きていたり、魔王になってしまったりという特殊な処理も可能になるでしょう。イベントの繋がりも複雑にして、分岐も増えるでしょうね。声優さんのキャラクタボイスも増えたり。
――ということは、それに応じてイベント数も増えていくということですね。
★桝田氏
そうですね。ゲームの構造上、キャラクタを増やすたびにイベント量も倍々に増えていくんです。おそらく2、3人キャラクタを増やすだけで、5周目ぐらいでも今まで見たことが無いようなストーリーが見られるということになります。
――『勇者死す。』に限らず、コンシューマで新たに作品を作る予定があれば教えてください。
★桝田氏
コンシューマでゲームを作るということは、常に考えていますよ。RPGなどに限らず、いろいろな作品を。
――今回の『勇者死す。ディレクターズカット』で、入れたい要素はすべて入れきったことになりますか。
★桝田氏
少なくとも、携帯電話のスペックとしては入れきりましたね。
★河上氏
ユーザーから要望があれば、勇者になるまでの過程を描く作品が登場する可能性もあります。
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| ▲河上氏は今後のコンシューマ展開の可能性や、関連商品などについて話してくれた |
――最後にユーザーへメッセージをどうぞ。
★桝田氏
ちゃんと作っている作品ですので、好きなように遊んでもらえればと思います。別にプレイスタイルに正解というものもないし、失敗も楽しみの一部ですから。このゲームは試行錯誤を楽しむゲームなので、割と大人向けの作品かもしれません。
★河上氏
このゲームはパズル要素的な構造の作品です。自分のプレイコンセプトを決めて、色々なプレイスタイルを探してみてほしいです。
――本日は、ありがとうございました。