いよいよ2009年1月22日(木)に発売となったバンダイナムコゲームスのWii向け新作タイトル『FRAGILE(フラジール) ~さよなら月の廃墟~』(以下『FRAGILE』)。
「廃墟探索RPG」という一風変わったゲーム内容もさることながら、その情緒あふれる独特の世界観にジーパラ編集部も注目し、今まで新作紹介や映像配信という形でその魅力をお届けしてきた。 |
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今回、そんな『FRAGILE』を手がける同社プロデューサー川島 健太郎氏と、アートディレクターを務めた原田 恵子氏にインタビューを実施。企画の発端から、廃墟を取材する過程で生まれたアイデアなど、制作の裏側や込められたテーマについて訊いた。
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| 左から、『FRAGILE』のプロデューサーを務める同社コンテンツ制作本部 第2制作ディビジョン 制作プロデューサー/アシスタントマネージャー 川島 健太郎氏、アートディレクターを務めた同 原田 恵子氏
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●『FRAGILE』の企画が立ち上がったのはいつ頃ですか?
★川島 健太郎氏(以下、川島氏)
「2003年くらいですね。ちょうどPS2の『ヴィーナス&ブレイブス』の制作を終えたあたりからネタを集め出していて、社内のブログに掲載したりもしていました。この頃は、ドイツの画家カスパー・ダーヴィト・フリードリヒが描いた『エルデナの廃墟』のような、風景画や宗教画からも、インスピレーションを得ていましたね」
●当初は、Wii向けの企画ではなかったと。
★川島氏
「ええ。企画自体は、Wiiが世に出る前から動いていたことになります。Wii発売後は、そちらで発売するべく準備をはじめました」
●企画がWii向けになったことで、操作方法の変更などで苦労しましたか?
★川島氏
「いえ、むしろWiiリモコンによる操作は『FRAGILE』に向いていますよ。たとえば懐中電灯で暗闇を照らすという操作にしても、ゲームパッドによる操作よりも、Wiiリモコンでの直感的な操作の方が適していると思います。実際に懐中電灯を使う場合と同じ動作がゲーム中で置き換えられますから、とても理解しやすい。Wii向けにした利点のひとつですね」
●「廃墟」をゲームに取り入れたのは、いわゆる「廃墟ブーム」の流れから?
★川島氏
「『廃墟ブーム』が盛り上がったのって、ちょっと前の話ですよ。その後も連綿と続いてはいますけど。僕は、首都圏の地下にある放水路みたいな『地下神殿』はもちろん、埋立地なんかにも興味があって、その場所にある雰囲気をゲームに取り入れられないかと考えていたんです」
●制作にあたって「廃墟」を実際に取材されたそうですが。
★原田 恵子氏(以下、原田氏)
「ゲーム中に登場する9か所ほぼすべてのステージは、実在する廃墟を取材したり写真資料を集めて、制作する際の参考にしています。さっき川島が言った『東京地下神殿』にも足を運びましたし、意外なところでは浅草の地下商店街も取材していますね」
●取材した写真なり資料に基づいて、リアルなステージを再現していると。
★川島氏
「いえ、ただ“リアルに”というわけではないですね。最近のゲーム機はマシンスペックが優れていますから、写実的な映像を追及することは可能です。ただ、リアルな背景を作ったとしても、実際の場に流れる空気感は出せない」
★原田氏
「ステージを制作するにあたっては、“リアルに”というよりは、情緒感を大事にしています。ゲーム中のステージで描かれるほとんどの場面は、主人公のセトが回想しているものなんです。私たちもそうですけど、自分が記憶している風景と、実際の風景は違うものですよね。ですから、実際の廃墟のディテールをデフォルメしたり、色味を変えて情緒的な感じに仕上げています」
★川島氏
「その意味では、ゲーム中のステージは『セトの心象風景』ともいえますね。30過ぎになったセトが『あー、昔こんなこともあったなぁ~』と思い出している姿を想像してもらえれば良いかもしれない(笑)。ところでさ、子どもの時に見た夕焼けって、今よりもっと大きくて真っ赤じゃなかった?」
★原田氏
「う~ん、そうですか? あんまり分からないかもしれないです…。年齢的なものではないですか(笑)」
●ステージマップを制作する上でも、取材した経験は生かされているのでしょうか。
★原田氏
「ええ。マップの構造はもちろんですが、私たちが取材で感動した体験をユーザーの方にも味わってもらいたいと考えて、デザインしています。例えば私たちが『このダムでーかい!』と思った場面なら、ダムを大きく描くことでゲーム中でも驚いてもらえるように調整していますね」
●さきほどの夕焼けではないですが、『FRAGILE』に出てくる「月」はかなり大きく描かれていますよね。
★川島氏
「星は夜空にいっぱいありますが、月はたったひとつで孤独じゃないですか。なので、孤独の象徴としてステージ中に登場させているんです。サブタイトルを『~さよなら月の廃墟~』としたのも、そんな孤独感を感じさようという狙いがあります。まあ、『太陽の廃墟』だと、元気いっぱいな感じが出てしまいますしね(笑)」
★原田氏
「ちなみにセトは、ゲーム序盤では月に向かって話していることが多いです。他のキャラクタとの会話シーンでも、相手を見ないで月に向かって話をしています」
★川島氏
「セトは最初、他人を理解/承認していないんです。『月に向かって話す』というのはその表れで。背負った『P.F』(携帯対話型AI)との会話さえ、月を見ながらですからね。だんだん、『P.F』とも向かい合って話すようになりますけど」
●『FRAGILE』で描かれるテーマのひとつとして、主人公・セトの精神的な成長があると思うのですが。
★川島氏
「そうですね。特にセトの『共感性』が育まれていく過程を描こうとしました。『共感性』とは、他人が感じていることを自分のこととして思えるかどうか、ですね。他人の希望や都合に応えられるか、といってもいいです。今、そういった感性が希薄になっているような気がします。ありきたりかもしれませんけど、ちょっとずつみんなが他人のことを思いやることができるなら、色々よい方向へ向うと思うんです」
●セトにとって、ヒロイン・レンとの出会いは成長するという意味でも重要ですが、このふたりの関係はちょっと特殊ですよね。ボーイ・ミーツ・ガールの王道をいく恋愛関係ではない。
★川島氏
「セトのセリフに『いてくれるだけでいい』というのがあるんですが、とてもプリミティブな関係ですね。『FRAGILE』では、個人が置かれる様々な状況を排除・純化していって、究極的に孤独な世界を作りだしています。そのため舞台が『人類が滅び、廃墟と、青い幽霊たちの星となった地球』になりました」
●今までに公開された映像では、セトとレンが金網ごしに手を触れ合わせるシーンがありました。自分以外の誰かにいてほしい、という祈りのような想いを感じます。
★川島氏
「僕は、世の中で自分のことを本当に理解してくれる存在と一緒にいられる人って、ほとんどいないと思うんです。ただ、僕らの日常生活には孤独を忘れさせてくれる『装置』がいたるところに用意されているから、なんとか孤独を誤魔化して生きていける。でも、自分以外に誰もいない、何も無い世界に置かれたらどうするか。そんな孤独を突きつめた世界で、本当にプリミティブに心の空白と向き合って、自分以外の誰かを追いかける物語をやりたかったんです」
●「心の空白」を描くにあたり、想定したプレイヤー像はありますか?
★川島氏
「なんとなく想像したのは、大学生くらいの一人暮らしをしている男の子ですかね。地方から上京してきて、アパート住まい。サークルに入りながらバイトしていて、彼女もいたりする。でも、ふとした瞬間に「あれ、何だろう」と心の空白を見つけしまった感じ。あとは、読書好きな人です。読書という行為自体が孤独を感じさせますし、文字に親しむ人は何かしら空白を埋めたいという欲求が強いと思うんです。そういう人たちに手にとってもらうのを、ぼんやりと考えてはいました。ただ、もしかしたら、自分の大学時代だったり、自分自身のことを重ねている部分があるのかもしれないです。……なんか、恥ずかしいですね(笑)」
●ゲーム中のデザインですが、インターフェイスをはじめ、アイテムのデザインなどレトロ調になっています。未来の舞台にレトロな要素を盛り込んだのはなぜですか?
★原田氏
「未来が舞台となってはいますが、世界観自体は昭和40年ごろをモチーフとしているので、それに従ってインターフェイスやアイテムもちょっとノスタルジックなデザインに仕上げています」
★川島氏
「廃墟そのものが、ノスタルジーを感じさせる存在なので、レトロ調なデザインと相性がいいんです。参考とした廃墟にしても、昭和40年ごろにはそこで人の営みがあったはずですから、何かしら通じるものがあるのかもしれません」
★原田氏
「廃墟って今に通じつつ、昔のまま取り残されている場所だと思うんです。だからレトロなものが合うんじゃないでしょうか。廃墟にしても、昭和のレトロなデザインにしても、現役だった時代に生まれていないにも関わらず、懐かしさを感じるのは不思議なところです」 |
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●歌手の手嶌葵さんがオープニングテーマとエンディングテーマを担当されていますが、起用の経緯を教えてください。
★川島氏
「今回、担当者から『作品にいかに合うか、作品寄りでアーティストを選びましょう』と言ってもらえたので、自分たちの自由にお願いしたいアーティストさんを選ぶことができました。ヤマハ・ミュージックさんからサンプル曲として数十曲いただいて、その中から手嶌さんに依頼することを決めたんですが、はじめてサンプルを聴いた時は衝撃でした。『天使の歌声』と呼ばれるだけのことはあるなぁ!と。歌ってもらえて本当に良かったと思っています」
★原田氏
「ゲーム中に使用されるBGMは世界観に引きこませる反面、『閉じている』感じのする曲が多かったんですね。そんな時に、手嶌さんが歌うオープニングテーマ『光』が「ねえ、」という呼びかけで始まるのを聴いて、『この曲なら世界観を開いてくれる』と思いました。曲全体を通してもユーザーに呼びかける内容で、本当にオープニングにぴったりです」
★川島氏
「ちなみに、エンディングテーマ『月のぬくもり』もサンプルから選んだのですが、選考の場で作曲家の名前は伏せられていたんです。『名前』で選ばないように。選ばなかった候補曲の作曲家を、後で教えてもらっておどろきましたけどね。もう『大物作曲家』という方の名前もありましたから」
●では最後に、ユーザーへのメッセージということで、『FRAGILE』の見どころを教えてください。
★川島氏
「ストーリーを追っかけてゲームを進めるだけではなく、ちょっと立ち止まって、さまざまな廃墟の空気を感じていただいたり、月を見上げたり、ねこたちと遊んでみたり……そんな寄り道をしていただけると、よりいっそう『FRAGILE』の世界を楽しんでいただけるのではないでしょうか?」
★原田氏
「アイテムを拾ったり、ウロウロして廃墟の探索を楽しんでください。ストーリーは切なく、一期一会のありがたさを描いています。あるキャラクタと心が通じたと思っても、別れなければならない悲しさはありますが、セトがレンと出会って、彼女とどうなっていくのか楽しみながら見守ってもらえたらと思います」
●本日はありがとうございました。
(ジーパラドットコム 広田)