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元宮秀介のこれぐらい知っとけ
 
第16回
大人を唸らせる傑作『ウィッシュルーム』の表現に注目
2007.02.06
関連URL:任天堂
 

 今回は任天堂がニンテンドーDS向けにリリースした『ウィッシュルーム 天使の記憶』を題材に語ってみようと思う。僕は1周目をクリアした後、2周目も終え、この物語を十二分に堪能した。

 『ウィッシュルーム 天使の記憶』は、物語を読み進めていくタイプのいわゆる「アドベンチャーゲーム」に分類される作品だ。主人公のカイル・ハイドは、元ニューヨーク市警の刑事。犯罪組織に潜入し、捜査を行っていたのだが、同僚で親友のブラッドリーが突然裏切り、犯罪組織に寝返る。    カイル・ハイドは、ブラッドリーを埠頭へ追い詰め、引き金を引いたのだが、ブラッドリーの死体はいつまで立っても上がってこなかった。
  カイルはこの事件をきっかけに、刑事をやめ、レッドクラウン商会という企業に就職し、一介のセールスマンとなった。そして、今もなお生死の知れぬブラッドリーの行方を追っている……。
  とある仕事の依頼で、カイルはネバダ州にあるホテル・ダスクに滞在する。『ウィッシュルーム 天使の記憶』は、このホテル・ダスクが舞台となり、カイルは実に奇妙で、謎めいていて、心を揺さぶられる一夜を過ごすことになる。

 キャッチコピーは「DSで、ミステリー」。誰も死なないし、殺されない。しかし本格的な推理小説を読み終えたときと同様の充足感がある。歳を重ねた大人なら、登場人物たちの生き様に涙を禁じえない傑作だ。

 僕は、『ウィッシュルーム 天使の記憶』のある場面に、非常に驚いた。主人公のカイル・ハイドは、ホテル内にあるバーで、ケンタッキー産のバーボンを飲み干すのだ。これのどこか驚くに値するのか? そんな疑問の声が聞こえてきそうだが、これぞ画期的な場面なのだ。

 任天堂は、昔から公序良俗を重んじている。家族誰もが安心して遊べる娯楽をめざし、無意味な暴力シーンや喫煙、飲酒などの表現は徹底して避けてきた。ところが『ウィッシュルーム 天使の記憶』では、主人公のカイル・ハイドが二度もバーボンを飲むのだ。ケンタッキー産のバーボンは、IWハーパーをはじめ種類が豊富で、銘柄は特定できないのだが、カイル・ハイドはゲーム中でいちばんの笑顔でこれを飲み干すのだ。その飛びっきりの笑顔は、ゲームを遊んだ人なら誰でも強烈な印象を覚えるだろう。そして酒飲みならば、「実にうまそうだ、自分も飲みたい」と思うだろう。
  僕はこのシーンを体験して以来、バー通いを始め、週に1~2度だが、バーボンやウィスキーを呑むようになった。それくらいの求心力のあるシーンだ。

 このシーンから言えるのは、任天堂は「大人が楽しめるゲーム」をめざしたのだろう。それも本気で。また自分たちがこれまで避けてきた表現を駆使してまで。ニンテンドーDSは中高年にも売れているが、彼らのためのゲームを作り、ゲームの面白さをさらに伝えようとしたのだろう。
   ご存知の通り、任天堂は、ニンテンドーDSでハードウェアだけでなく、ソフトウェアでも、ゲーム層の裾野の拡大を狙っている。『ウィッシュルーム 天使の記憶』も、そのうちの一本ということだろう。売り上げは、発売第一週で6万本を超えるヒットを記録した、という。ならば任天堂の試みは、またしても的中したことになる。今後も「大人が楽しめるゲーム」が作られていくに違いない。

(C)2007 Nintendo/CING
 
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