8月末に経済産業省が「ゲームアカデミー賞」の設立を発表した。実施は来年度からだという。各種のアワードが充実している北米に比べると遅きに失した感はあるが、僕個人は重要な賞になってほしい、と願っている。
昨今騒がれていることだが、日本がゲームの世界をリードしてきたのは今は昔。現在の家庭用テレビゲームの主戦場は北米だ。日本でも売れ、北米でも売れるようなゲームを作りうる開発力を持たないと、ソフトメーカーの経営はますます厳しくなると思われる。
厳しくなる原因は、開発費の高騰だけではない。人材の不足も深刻なものだろう。何でもいい。手元にあるゲーム雑誌を開いてほしい。そこに並んでいるクリエイターの顔ぶれは、10年前から変わっていないはずだ。「期待の新人クリエイター」として、若者が賞賛されることはめったにない。
おそらくは、今の若者の目には、ゲーム開発は楽しいもの、としては映ってはいないのだろう。「休日を返上して、徹夜の連続ですよ」「発売日の直前にバグが見つかって開発現場はパニックになりました」。ゲーム雑誌に掲載されているクリエイターインタビューは、開発者の苦労話で埋め尽くされている。ゲームを作る幸せや、チームのメンバーと力を合わせて困難を乗り越えたときの至福などの触れられることは皆無だ。
これでは、ゲームを作ろうと志す若者は減少していく一方だろう。自戒を込めて書くが、ゲームライターはゲームクリエイターに「ゲームを作る悦び」をもっと訊くことだ。ゲームクリエイターは、ゲームの開発には幸福な瞬間があることをもっともっと語るべきだ。
なぜ、僕がこんなことを書いたのかといえば、とある雑誌の連載記事で「日曜プログラマー」の存在に触れており、彼らの発言に励まされているからだ。彼らは「フリーソフト」と呼ばれるパソコンを便利にするツールを無償の精神で作っている。そんな彼らは、プログラムの楽しさを実にうれしそうに語ってくれるのだ。
ゲームと比べると、フリーソフトの規模はおそろしく小さいので、直面する苦労は少ない。けれども「プログラムを作るのはとても楽しい」と語る彼らの存在は、僕にはとても新鮮だ。
そんな状況下でマイクロソフトは、Xbox 360のさらなる普及のために、驚くべき方策を打ち出した。「XNA Game Studio Express」と呼ばれるこのツールは、ウインドウズXP向けのゲーム開発ツールを無償(!)で配布する、というものだ。特別な機材はいらない。ウインドウズXPに対応したパソコンがあればいい。Xbox 360にも対応しており、それには年間99ドルの会費が必要になるというが、それでも驚くべき安さといえるだろう。それ以上に、これまでは極秘裏にされていたゲームの開発ツールが一般に開放されるというのだから衝撃的だ。
完成したゲームは、Xbox Live Arcadeを通じて世界に向けて発表できるようになる。パッケージ化や宣伝、流通の心配は不要だ。クリエイターは、ゲームの開発だけに専念することができる。
僕は夢想する。「XNA Game Studio Express」が成功を収め、無数の無名のクリエイターによる斬新なゲームが生まれている数年後を。ヒット作を生み出し、大金をものにした若手のインディーズクリエイター。大手ソフトパブリッシャーからのオファーがあって、より恵まれた開発環境を手に入れたクリエイター。こうした成功例がたくさん生まれたとき、ゲームの作り手になりたいと願う若者が増え、ゲームの世界はより活性化していくだろう。
人材を評価する仕組みや人材を発掘する試みが同時に発足したのは、人材がいかに少ないか、という産業全体の危機感の表れではないか。「ゲームアカデミー賞」と「XNA Game Studio Express」の両プロジェクトの成功を願ってやまない。
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