「グラスホッパー・マニファクチュア」須田剛一”ディレクター須田剛一のリブート”シシララ安藤武博のインディーズを見ずに死ねるか!#45

記事カテゴリ: PCゲーム
小野憲史
2017年01月27日

 ヒューマンで『トワイライトシンドローム』『ムーンライトシンドローム』などのディレクターを経て、1998年にグラスホッパー・マニファクチュアを設立した須田剛一氏。
 一方で古巣のヒューマンは1999年に和議申請を行い、2000年に破産。
 主要ゲーム機がPS1からPS2に大きくシフトする中で、老舗パブリッシャーの撤退も相次いだ。
 激動の20世紀が終了し、21世紀の幕開けと共に、ゲーム業界は新しいステージに入っていく。
  
 一方でグラスホッパー・マニファクチュアのゲーム作りもどんどん進化していった。
 ストーリーに加えて、アクション要素が加わった、アクション・アドベンチャーへの進化だ。
 もっとも、ゲーム開発の大作化が進むにつれて、須田氏をとりまく環境も大きく変化していき・・・。
 『シルバー事件 HDリマスター版』発売が須田氏にもたらしたものとは何か。
 対談はさらに深い内容に進んでいった。

「グラスホッパー・マニファクチュア」須田剛一”ディレクター須田剛一のリブート”シシララ安藤武博のインディーズを見ずに死ねるか!#45
▲写真左から、グラスホッパー・マニファクチュア代表須田剛一氏。シシララ代表安藤武博氏。※グラスホッパー・マニファクチュア打ち合わせスペースにて

いつも何かに怒っていた

安藤氏:
(『シルバー事件』は)すごく野心的だったように見えます。
須田さんの作品には、かなりそういうところがあるんですが、特に『シルバー事件』については顕著な気がします。
まだ人数が少ない、みずみずしい、いわばインディのころのグラスホッパーの第一作だったわけですよね。

須田氏:
うちは無名の状態でスタートしたんですよ。
そもそもヒューマンって冷静に考えて、一流ではなくて三流のパブリッシャーだったんですよね。
そこからスピンアウトした無名の会社が、アスキーさんというパブリッシャーを得て、一作目を作ろうとしたわけです。
好対照だったのがラブデリックさんで、すでに『MOON』(1997年、PS1、アスキー、開発ラブデリック)を発表されていましたが、彼らはそれこそスクウェアの若手トップクリエイターたちが集結して作った、エリート集団だったんですよ。
それに比べてこっちは雑草で無名で、その人間たちで何が作れるのか、そこはよく考えました。

安藤氏:
そんな捉え方だったんですね。

須田氏:
そうですね。だから、なんですかね・・・全世界のクリエイターと戦うつもりで作ってたと思います。
誰にも負けないぞというのがどこかにあって。
でも、客観的にみれば、負けてはいるんですね。
負けからスタートしているんで。

安藤氏:
そういう自覚があったんですか?

須田氏:
ものすごくありましたね。

安藤氏:
雑草感はありましたが、三流感はあまり感じてなかったですよ。

須田氏:
そこはヒューマンにいた人間が一番感じていました。
僕らはホントにジオンの残党だと思って物を作っていましたから。
実際、どこかにジオン魂が残っているんですよ。
それは、いわゆる野良犬根性でもあって。
だからこそ他のゲームに負けないものを作らないとという。

安藤氏:
ジオン魂(笑)。

須田氏:
別にヒューマンを背負うわけではないですが、自分の名前で、グラスホッパーという会社を立ち上げてまでゲームを作るからには、なにかすごいものを作りたいという思いが根っこにあって。
じゃあ、実際にどうやって作るのか、常に現実と戦いながら。
その中でも、自分にできることは脚本だったんですね。
とりあえず、シナリオベースでゲームを作っていこうと。
それで、自分がすごくやりたいテーマを5話にまとめて、それぞれ関連性を持たせて。
だから、『シルバー事件』については、作りたいものを全部、小分けにしてぶち込んだ感じもあるんです。

安藤氏:
それでエピソード形式なんですね。

須田氏:
ヒューマン時代にオリジナルをなかなか作れなかった思いみたいなものも含めて、1個の作品でいろんなことをしたかったんです。
だから実写もアニメも使いたかったし。
5本分のゲームか、それ以上のものをつっこんだのかもしれません。
だから何かと戦っていたというか、常に何かの怒りがありました。

安藤氏:
怒りとか凶暴性はすごく感じます。

須田氏:
それが常にありましたね。
当時は、それがずっと燃え続けていて、全然鎮火しない感じでした。

安藤氏:
河野一二三さんとも過去に対談しましたが、そういったジオンの残党魂みたいなものは、やっぱり感じました。
常に何かしら怒っていて噛みついていこという姿勢がとてもかっこいい。

須田氏:
彼はいまだにピュアな感じですね。

安藤氏:
アジテーションにも似た、押しみたいなものが心地よいくらいにぐさぐさきて。
ロックとかパンク色の強さみたいなものをすごく感じました
その怒りは、起業したときの初期衝動だったんですか? 
それとも、今では変わってきましたか?

須田氏:
初期衝動そのものと、所信表明と自分への怒りだったと思います。
今はやはり怒りの質が変わってきたというか。
ゲーム作りの環境も、作っているものも、当時とは全然違ってきましたし。

安藤氏:
同じアドベンチャーゲームでも、どんどんアクション要素が強くなってきましたしね。

須田氏:
現場べったりで作ったのは、『Shadows of The Damned』(2011年、PS3、EA、開発グラスホッパー・マニファクチュア)が最後だったかもしれません。
それでも後半はディレクターに任せていました。
純粋にディレクション作品というと、『ノーモア★ヒーローズ』がラストですね。
そこからはちょっとうさんくさい「なんとかディレクター」「クリエイティブなんとか」みたいな。

安藤氏:
僕の前職も最後の方はそんな感じでした。

『シルバー事件 HDリマスター』が火をつけたもの

須田氏:
純粋なディレクターに戻りたいんですよ。
『シルバー事件 HDリマスター(HDリマスター)』をやって、よりその思いが強くなりました。
だからこそ、仕掛けたような気もしますね。
自分の中で昔ほど、何かに対して燃やす火みたいなものが、そう簡単に出てこないんですよ。
作りたい物はいくつかあるんですが、それに着火させるのが昔より難しくなっているのは事実で。
強引にでも火をつけないと。
強引にでも怒りを生み出さないといけないなと。
それが『HDリマスター』をやるうちに、だんだん勝手に火がつき始めたというか。

安藤氏:
ふむふむ。

須田氏:
あとはアイドリングじゃないですけど、予備動作という言葉を使っちゃうのは大変申し訳ないんですが、どこか自分の中でクリエイティブを回転させる場が欲しくて。
ちょうど先月終わりましたが、コミックビームで漫画連載をやっていたんです。
毎月締切があって、夜中にフルスロットルでばーっと描く生活が続いていました。

安藤氏:
実際に自分で手を動かすと言うことですよね。

須田氏:
そうですね。
物語を生み出す、クリエイティブを生み出す行為を、1年半近く続けられて。
そこで、だんだん準備が積み上がってきた感じがするんですね。
その一方で『HDリマスター』をやりつつ、若い頃の自分をすごく間近で見ちゃったんです。

安藤氏:
どんな感じでした?
僕は自分が作ったゲームを発売から5年くらい後に遊ぶと、本当に自分が作ったのかなという感じになるんです。
誰か違う人が作ったんじゃないかって、思っちゃうくらい自分の手を離れて他人事になる。
須田さんはいかがでしたか? 
いわば『HDリマスター』って、須田さんが30歳くらいに書かれたテキストの洪水を受け止めるような作業ですよね。

須田氏:
はい、別人ですね。
今の自分ではこの言葉は出てこないなとか。
自分は今、この演出をするかなといったら、しないかもしれないなとか。
本当に細かく、フレーム単位で調整しているんです。
ここまでやっていたのかなと。
良い仕事をしているな、やべえぞ、こいつという。

安藤氏:
この時の自分にどうやって勝とうかって、思いましたか?

須田氏:
思いましたね。
オマエとは違うもっと老獪なやり方で勝つぞと、宣言しようかと思ったくらい。

安藤氏:
年齢も変われば、環境も変わりますからね。
30歳くらいのころは、夜討ち朝駆けが当たり前で、多少疲れても寝たら直りますしね。
そのくらいの時期のモノづくりですもんね。

須田氏:
そうですね。
ずっと働いていました。

安藤氏:
今は体の構造的にも無理。

須田氏:
あとは周りにも申し訳なくて。

安藤氏:
須田さんがずっと机の下とかで寝ていても、おかしいですもんね。
でも、若いころはそうやってゲームを作られていた。
別人のように感じられても、おかしくないでしょうね。

須田氏:
ホントにそう思いました。

安藤氏:
それがコミックスの仕事をされたり、自分の手を動かしながら、ピュアなディレクターの須田剛一が甦ってきたわけですね。

須田氏:
それもありましたし、30代の自分がああいった仕事をしていたから、ゲーム作りの骨格ができあがっていったわけで。
それが今でもクリエイティブなエネルギーがまだまだあることに気づかされて。
だからこそ、変な話ですが自分に対してパワーをもらいました。
すごく不思議な感覚で。
自分だけど自分じゃないんですよね。

安藤氏:
『ノーモア★ヒーローズ』の前後で、何か須田さんの中で作風が変わった感じがするんです。
いってみれば『シルバー事件』って、これほどドメスティックなゲームもないわけですよね。
でも『LET IT DIE』も含めて、グラスホッパーのゲームは海外で熱狂的なファンがいて、ワールドワイドでヒットしている。
いま伺っていると、ご自身ですべて手がけられていたころと、信頼できる仲間たちに任したということでも、なにか変化があったのかなと思うんですが、そこの違いも作品に現れていますか?

須田氏:
現れていると思いますね。
なるべく口出しはしたくないので、現場のディレクターが作りたいようにさせていますし、そうなると違った色が出てくると思いますし。
実際に、もっと僕の色を壊して欲しいんですよ。
それは今もそうですし、当時も思っていましたね。
グラスホッパーのゲームを称して、ファンの間で「須田ゲー」という言葉があるんです。
日本だけじゃなく、海外でも「Sudage」と言われているんですよ。
そう思われないようなゲームが、もっとグラスホッパーから出て欲しいなと、昔から考えています。
そこの殻を本当に破って欲しいですし、逆に『須田ゲー』は自分が作らないといけないなと、あらためて感じました。

安藤氏:
須田さん以外の人が『須田ゲー』を作っていても、仕方がないですもんね。
そこに対する怒りみたいなものも、ちょっとありますか?

須田氏:
うーんどうだろう。
そこをもっと強烈に変化させていかないとまずいなというのはあります。
でも、それができるのは自分しかいないから、自分が強烈に動かしていかないと。
自分自身で自分のゲームをもっと作っていくことも含めて、変わっていかないかなと感じていますね。

インディだからできる挑戦

安藤氏:
よく起業のリスクとして、「10年生存率が3%」などといいますよね。
つまり100社起業したら97社が10年以内になくなるといわれる中で、まもなくグラスホッパーは20周年を迎えるわけです。

須田氏:
早いですね。

安藤氏:
会社を続けていく人格と、物を作る人格は完全に矛盾するところがある。
自分も部長職をやっているときは、手を動かさないようにしようと決断したんです。
中途半端になるし、そうとう優秀な人でも帰らずに仕事をして、ようやく両立できるという領域になるので。
こりゃ体を壊すし俺にはできないぞと思いました。
今回また「自分で手を下す須田さん」がむくむくと甦ってきて、マネジメントとのバランスはどのように考えられていますか?

須田氏:
まずはゲームサイズですね。
本当にインディサイズでゲームを作る場を、自分で創り上げていきたいなと思っています。
これが大規模になると絶対に無理なので。
マネジメントも含めて、自分で見なければいけない状況がかなり増えてきますからね。

安藤氏:
インディだったら、それができる。

須田氏:
そうですね。
それに今、幸いガンホーグループにいることで、バックオフィスをしっかりサポートしてくれます(注:2013年よりガンホー・オンライン・エンターテイメントの傘下に入った)。
クリエイティブに専念できる環境を作らせてもらえるんですね。
そこはすごく良い環境になっています。

安藤氏:
そういう意味ではガンホーグループがクリエイター須田剛一を再び甦らせつつある。

須田氏:
まさにそうですね。
そういう環境は与えてもらっているので。

安藤氏:
そういう「身の丈でできる」ゲームのイメージって、どんな感じですか?
『シルバー事件』のようなテキストドリブンのアドベンチャーゲームって、わりとコンパクトなサイズでもできますよね。
一方で海外のインディゲームシーンでは、『INSIDE』(2016年、PC、playdead)のようなナイトメア系のゲームも流行っています。
ああいうものも少数で作られていますし。

須田氏:
作りたいものでいえば、アクション中心でストーリードリブンなものですね。
アクション主体でストーリーがあって、その中にいろんな遊びが散りばめられているもの、という軸は変わらないと思います。
シナリオを書いて、その中にゲームデザインをどんどん描き込んでいって、それがほぼ仕様書になるというのが、本来の僕のゲームの作り方なので。

安藤氏:
まずはシナリオがわーっとあるんだ。

須田氏:
『ノーモア★ヒーローズ』はまさにその形でしたね。
仕様書はないんです。
みんな自分のシナリオが上がるのを待っていて。
シナリオが上がると、ばーっとスタッフがそれを解体してくれて、実際にゲームが作れるような形にしてくれて、それを元に開発が進んでいくという。

安藤氏:
じゃあ、ゲームデザインは最後なんですね。

須田氏:
そういう意味では最後ですね。
もっとも、アクションをストーリーでつないでいく形になるので、大枠のゲームデザインは最初から決まっているんです。
一方で具体的にどんな敵が出てきて、どんなボスファイトで、どんなマップで、というのはすべてシナリオを分解して作っていきます。
アドベンチャーゲームもいいんですが、基本的にアクションゲームが好きなんですよね。
アクションアドベンチャーという、すごく定義が難しい言葉があるじゃないですか。
だから、作りたいジャンルでいえば、アクションアドベンチャーですかね。

安藤氏:
アクションを遊んでいくと、自然にお話とか、世界設定みたいなものが出てきて、忘れられないような体験になっていくという構造ですね。

須田氏:
『ゼルダの伝説』(1986年、FC、任天堂)シリーズが好きなんですよ。
『ゼルダ』も大きく定義するとアクションアドベンチャーですよね。
冒険や体験、旅の記憶みたいなものって、遊び終わっても、ずっと残るじゃないですか。
ああいったものをインディの規模で作りたいなあと思います。

安藤氏:
アクションアドベンチャーの秀作はインディーズでも、どんどん出てきていますしね。
それこそAutomatonなどの記事を見ていて、格好いいなと思うものはアクションアドベンチャーが多い気がします。
ゲームをプレイをしているんだけど、その背景にテキストが並行して表示されていて、プレイのテンポを損なうことなく、チュートリアルにもなっているとか。
無駄のない、すごいソリッドなゲーム体験をもつものになっていて、「すごいな」と思わされたり。
そういった点ではゲームがゲームだけに表現できるストーリーの伝え方なのかも知れませんね、アクションアドベンチャーって。

須田氏:
あと、もう少しえげつなく言うと、アクションだけでゲームを作るとコストがかかるんです。
どこかでアドベンチャー要素を入れて、プレイ時間を埋めていかないと、お金がかかって仕方がない。
それこそインディ規模じゃなくなってしまうので。

安藤氏:
そうなると『LET IT DIE』と同じになってしまう。

須田氏:
まさにそうです。
アクションで埋めると金と時間がかかるのは、嫌というほど経験してきたので、そこは老獪に。


(以下、次号)

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リリース日 2016年10月07日 (【PC】)
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