「グラスホッパー・マニファクチュア」須田剛一”奇妙な時代の最後のきらめき”シシララ安藤武博のインディーズを見ずに死ねるか!#43

記事カテゴリ: PCゲーム
小野憲史
2016年12月29日

 スクウェア・エニックスで数々のヒットタイトルをプロデュースし、2015年に独立してシシララを設立。
 現在はゲームのプロデュースを続けつつ、毎週月曜日にニコ生「ゲームDJ・安藤武博のつくった人がゲーム実況」を配信している安藤武博氏。
 本連載はそんな安藤氏が気になるインディークリエイターを直撃し、普段聞けないいろいろなことをズバリ聞いてみようという内容だ。

 今回のゲストはグラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏。
 全世界にファンを持ち、海外では「SUDA51」で知られるクリエイターだ。
 そんな須田氏がスタジオを立ち上げて送り出した第一弾『シルバー事件』が、17年の歳月を経てPC向けにHDリマスターされた。
 オリジナル版は主要メンバー5人で作られた「インディゲーム」だ。
 もっとも、同時期にゲームクリエイターになった安藤氏には、本作に特別な思い入れがあるようで・・・。
 対談は安藤氏がゲームをプレイした感想から始まった。

「グラスホッパー・マニファクチュア」須田剛一”奇妙な時代の最後のきらめき”シシララ安藤武博のインディーズを見ずに死ねるか!#43
▲写真左から、グラスホッパー・マニファクチュア代表須田剛一氏。シシララ代表安藤武博氏。※グラスホッパー・マニファクチュア打ち合わせスペースにて

エニックスですれ違っていた二人

須田剛一氏(以下須田氏):
今日はわざわざ弊社までお越しいただき、ありがとうございました。

安藤武博氏:(以下安藤氏):
お忙しいのにお邪魔しちゃって、すみません。
素敵なオフィスですね。

須田氏:
安藤さんとは以前、エニックス時代にご挨拶させていただいていますよね。
打ち合わせでお邪魔していた頃に、名刺交換させていただきました。

安藤氏:
ちょうどオリジナルの『シルバー事件』(1998年、PS1、アスキー、開発グラスホッパー・マニファクチュア)をリリースされて、すぐの頃の話ですよね。
グラスホッパー・マニファクチュアが設立されたのが1998年3月30日で、僕は同じ年の4月1日入社なんです。
須田さんがエニックスに見えられていた頃は、まだ若手でしたので、開発室の入り口近くに座っていました。
お客様が来られたときに、よく会議室にお通ししていたので、そういう形でお会いしていますね。

須田氏:
その節は大変お世話になりまして。

安藤氏:
いえいえ、こちらこそ。
業界ですごく長いキャリアをお持ちで、インディからAAAまでいろんな規模のゲーム作りに携わられてきた須田さんとの対談なので、どんな話題がいいか、けっこう悩んだんです。
僕はあんまり緊張しないタイプで、対談やイベントでも事前に打ち合わせをせずに、出たとこ勝負のドリフト感を楽しむタイプなんですが、わりと今回は、真剣に。

須田氏:
そうなんですか、それは申し訳なかったです。

安藤氏:
いろいろ考えた結果、ちょうど『シルバー事件HDリマスターPC版』(2016年、PC、グラスホッパー・マニファクチュア)が発売されたこともあるので、今日はそこに絞りたいなと。

須田氏:
まさにインディーズ時代ですね。

安藤氏:
はい、そうです。
まだ「須田剛一」が「SUDA51」になる前の話ですね。
ところで、対談にそなえて『HDリマスター』を遊んでいたら、いろんなことに思いが広がってしまって、とてつもなく“せつなく”なってしまったんですよ。

須田氏:
せつないですか?

安藤氏:
そうなんですね。
ちょっと長くなってしまうんですが、まずそこから話させていただいて良いですか?

須田氏:
興味深いですね。

安藤氏:
さっきもいったように、須田さんは渡辺泰仁さん(現:スクウェア・エニックス執行役員)や、廣重演久さん(現:コーエーテクモゲームス)との打ち合わせで、一時期エニックスに来られていましたよね。

須田氏:
はいはい、よく3人で話をしていました。

安藤氏:
渡辺さんはエニックスで僕の師匠筋に当たる人なんですね。
もっとも、僕がスクエニを辞めるときにその話をしたら「お前を弟子にした覚えはない!」と言われましたけど(笑)。
自分では「雛と親鳥」みたいな関係だと思っています。
とにかく、渡辺さんの背中を見て育ったので、ゲーム作りにおいても、あの人の影響がすごく強いんですよ。
当時渡辺さんがプロデュースされていたゲームが『バスト ア ムーブ Dance&Rhythm Action』(1998年、PS1、エニックス)、『せがれいじり』(1999年、PS1、エニックス)、それに世に出なかったんですが、18禁メーカーの方と喫茶店を経営してマスターになるゲームとか。
そういうものを作られていて。

須田氏:
あとはうちでもお蔵入りした案件がありましたしね。

安藤氏:
はっきり覚えているんですが、当時のメインストリームは、前年に『ファイナルファンタジーVII』(1997年、PS1、スクウェア)が出て、『バイオハザード』がヒットして(1996年、PS1、カプコン)、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現:ソニー・インタラクティブエンタテインメント)がすごい予算を組んでテレビCMをバンバン投下していて、すべてのクリエイティブをCD-ROMが飲み込んでしまうんじゃないか、という時代でしたよね。
そういった風潮に対して、ゲームってそういうものだと、一般の人も思い始めていた。

須田氏:
はいはい。

安藤氏:
そんな中で僕の師匠は、ゲリラ戦のようにとんがったゲーム作りをずっとやっていた。
それもあって、オリジナルの『シルバー事件』も当時、PS1で遊んでいたんですよ。
開発主要メンバーが5人と聞いていて、今でいうインディだなあと。
写真とか実写映像とか、バンバン使われていて、格好いいなあと思いましたし。
『鈴木爆発』(2000年、PS1、エニックス、開発SOL)を作る時も参考にさせていただきました。

須田氏:
ああ、そうなんですね。ありがとうございます。

安藤氏:
それで、あらためて『HDリマスター』を遊んでみたんですが・・・。
率直な感想をいうと「あれ?こんなゲームだったっけ?」

遊んでなんだか、すごくせつなくなった

須田氏:
ほー、それはどういう?

安藤氏:
当時遊んだはずの『シルバー事件』と全然違っているように感じたんですね。
理由について、ずっと考えていたんです。
思いついたのが、すごいシンプルなんですが、単純にモニターが大きくなって高精細になった。
フォントも含めて、めちゃ綺麗になっていて、そこで違いを感じたんじゃないかな。
当時は若くてお金もなくて、むっちゃ狭いマンションにすんでいて、アイワの14インチのテレビで遊んでいました。

須田氏:
アイワなんだ(笑)。懐かしい。

安藤氏:
アイワだけ当時、14インチでステレオのテレビがあったんですよ。
それにPS1をつなげて遊んでいたんですよ。
要するに良い感じでグラフィックがぼやけていたんですね。

須田氏:
当時は21インチが贅沢な時代でしたしね。

安藤氏:
それがフルHDのモニタになって、すべてがパキっとなっていたので、当時の印象と今のゲーム感覚が、頭の中でまったくマージできなかったんですよね。
そこから当時の『シルバー事件』のことを、もっと思い出したいなと思って、当時っぽい環境で出力して、Youtubeに上げている人のプレイ動画をずっと見ていたんですよ。
そうしたら、なんか、たまらなくせつない感じになってきて。
なんなんだろうこれはって。

須田氏:
はい。

安藤氏:
いろいろ考えたんですが、『シルバー事件』は、グラスホッパーにとって唯一20世紀に出されたゲームなんですよね。

須田氏:
そうなんですよ、ぎりぎり。

安藤氏:
僕が最初に親分の影響を受けて作った『鈴木爆発』も2000年の7月に出ていて、ぎりぎり20世紀なんですよ。
そんな風に、ずっとプレイ動画を見ていたら、20世紀のことをずっと考えはじめちゃって。

須田氏:
あの時代のことですね。

安藤氏:
20世紀って、つい最近のような気がしていたんですが、すでに15年以上すぎてしまってるんですよね。
あのとき、僕は須田さんのゲームがすごく新しいなと思っていた。
『鈴木爆発』も、「ゲームでこんなに新しいことができるんだぜ」って気負って作りましたが、すっかりオールドスクールなものに、いつの間にかなってしまった。
そういったタイムスリップ感をすごく感じて、とてもせつなくなったんですよ。
いつまでも若いつもりでいたけど、気がついたら年をとっちゃったなあと。

須田氏:
そうなんですよ。
年を取りましたよね。
僕もずーっと『シルバー事件』をリマスターなり、リメイクしたいなと思っていたんです。
9年前からやっていて、やっと実現できました。

安藤氏:
たしかGDCで最初に公表されましたね。

須田氏:
ちょうど『ノーモア★ヒーローズ』(2007年、Wii・PS3・Xbox 360、マーベラスエンターテイメント、開発グラスホッパー・マニファクチュア)を出した時ですね。
冷静に考えたら、オリジナル版を出してから17年ぶりくらいなんですね。
もう、そんなにたっちゃったんだという。

安藤氏:
ゲームのハードウェアの進化とか、それを取り巻く環境について考えると、かなり今とは違っていますよね。

須田氏:
そうなんですよ。

安藤氏:
時代にあわせて、どんどんスタイルを変えていくミュージシャンがいます。
デビッド・ボウイが化粧をして、宇宙人だと言っていた頃の音楽CDを、今回みたいにリマスターで聞いても、そんなにせつなくならないと思うんですよね。
でもゲームの場合はすごい圧倒的にせつないなあと思って。
全然違うものにも生まれ変わっている。完全新作だとも思ったし。

須田氏:
たしかに楽曲をリマスターして、音質を上げたとしても、体験としては変わらないですよね。
ところがゲームは変わっちゃう・・・。

安藤氏:
そういった「生まれ変わり方」も格好いいなと思うんですが、あまりにも昔のことが昔になっていく感じがして。
リアルタイムで物を作っていくと、あんまりそういうことに向き合わない。
差分みたいなものにハッキリむきあう経験って、意外となかったんです。
タイムスリップしたみたいな感じで見ていました。
ゲームを作っているとあんまり時の流れを意識することってないんですが、今回一番感じたかもしれません。

須田氏:
そうかもしれないですね。

90年代後半はゲーム文化のエアポケット

安藤氏:
僕が1998年に入社して、1999年に出たソフトだからかもしれませんね。
実際『シルバー事件』が出たころって、自分の中でゲームを作りたいという初期衝動がすごくあったんです。
グラスホッパーにとってもファーストアルバムなわけですし。
あの頃のことを振り返ってみていただきたいんですが、20世紀最後の頃のPS1の頃は、すごく“奇妙な時代”だったと思うんです。

須田氏:
『鈴木爆発』もそうですし、『クーロンズゲート』(1997年、PS1、ソニー・ミュージックエンタテインメント)もそうですね。

安藤氏:
『クーロンズゲート』は、思わずクラウドファウンディングで支援してしまいました(注:『クーロンズゲートVR 朱雀』として開発進行中)。
当時、開発会社だった是空さんがエニックス本社ビルの6Fに入っていて、
3Fと4Fはトライエースが入っていて、『スターオーシャン セカンドストーリー』(1998年、PS1、エニックス、開発トライエース)や『ヴァルキリープロファイル』(1999年、PS1、エニックス、開発トライエース)を作っていた。

須田氏:
ちょうど僕が通っていたころですね。

安藤氏:
『せがれいじり』の打ち合わせで、秋元きつねさんがプジョー206CCで乗り付けたり。
『アストロノーカ』(1998年、PS1、エニックス、開発システムサコム)をムームーの森川さんが作っていたり。
あとは『パラッパラッパー』(1996年、PS1、ソニー・コンピュータエンタテインメント、開発七音社)がミリオンセールスを記録したり。
ゲームの作家性がすごく強い時代でしたよね。
遊ぶ人も、次にどんな変な物が出てくるか楽しみにしていました。
みんなゲームを、音楽を買うようなイメージで捉えていた。
玩具的なものから音楽的なものに変わっていって、まるでCDを買うみたいに。

須田氏:
まさにゲームが文化になっていったというか。

安藤氏:
それも今ふりかえると、けっきょくあの時期だけだったんですよね。
当時は、それがずっと続くかなあと思っていたんですが。

須田氏:
エアポケットみたいでしたね。

安藤氏:
そうですね。
1994年から2000年のPS1の時代だけ、とても奇妙なんですよね。
たとえば『ファイナルファンタジー』の『VII』、『VIII』、『IX』がPS1で出ましたが、僕は全部コンビニで買っているんですよね。

須田氏:
あー、デジキューブだ。

安藤氏:
先日『XV』が出ましたけど、もうコンビニで買わないじゃないですか。
あの時期だけコンビニで買っていた。

須田氏:
そうですそうです。

安藤氏:
ゲーム自体が任天堂主導の玩具的なものから、一気に流通もCMも作り手も含めて、変わろうぜとしていた時代に、僕らは作り手として参戦していた。
この奇妙な時代の最後のきらめきのひとつが『シルバー事件』だったのかなあと。

須田氏:
たしかに、そういった波が去りかけていた頃に、ぎりぎりのっかったところはありますね。

安藤氏:
その終わりと同時に21世紀になって。

須田氏:
同時にPS2になって。

安藤氏:
モンスターマシンになって、大規模開発になっていった。
まさに『シルバー事件』とは逆の方向性です。
5人とかだと到底作れない時代になりましたよね。
要するにそれって、ゲーム開発で制限と立ち向かう時代との終わりだったんですよ。

須田氏:
当時はまだ、バンドセッションで作れた時代だったんですよね。
それがオーケストラの時代になってしまって。

安藤氏:
バンドセッションだと、オーケストラに比べてできる作品も絶対違うじゃないですか。
それが何周かまわって、海外の人から今、熱望されている感じがして。
インディゲームが好きな人は、そうした「ゲームの作家性」についても、かなり意識的じゃないですか。
『HDリマスター』でも、「これはSUDA51がSUDA51になる前の作品なんだ」と、熱狂的なギークがYoutubeでがんがん喋っていて。
僕が見たムービーは字幕が入っていなかったので、雰囲気しかつかめなかったんですが、「英語になって遊べるようになって嬉しい」みたいなことを言っていました。

須田氏:
ありがたいですね。

安藤氏:
そういった「アーティストとリスナーの関係」みたいなものが、2016年になって改めて築かれているのって、すごくおもしろいなあと思っています。
今やゲームって、スマホゲームを中心に、誰が作っているか良くわからないものも多い。
でも、あの奇妙な時代はゲームの作家性がすごく立っていたんですよね。
ふりかえると1980年代初頭の、堀井雄二さんや中村光一さんたちが、一人でゲームを作っていた頃も、作家性が強かったですが・・・。

須田氏:
当時は「スタープログラマー」なんですよね。

安藤:
そうなんですよ。
それが1990年代になると、どちらかというとビジュアル面が評価されるようになった。
須田さんも『シルバー事件』で絵を描かれてますよね。

須田氏:
ちょっとだけですけどね。

安藤氏:
そんなふうに絵を描く人がクローズアップされはじめたのが、作家性の2ndウェーブみたいな感じだったのかなあと思ったり。
あんまりそういうことを考えない方なんですが、時代とか、センチュリーとか、フェーズみたいなもので区切るみたいなことを、『HDリマスター』を遊んで、あらためて感じたんですね。

須田:
そういっていただけると嬉しいですね。
意外とインディーズと直結するんです。

安藤氏:
実は最初に『HDリマスター』の話を聞いたとき、唐突だなと思ったんですよ。
ゲームのローカライズベンダーで、ゲームメディア「Automaton」も運営しているアクティブゲーミングメディアが、ローカライズに手を挙げてくれたんですよね。

須田氏:
そうですね。
「僕らしかこれをローカライズすることはできない」と断言されて。
なにしろ、すさまじいテキスト量ですから。

安藤氏:
その一方で『LET IT DIE』(2016年、PS4、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、開発グラスホッパー・マニファクチュア)の完成間近とも伺っていたので。
そっちの方に集中するべきタイミングだろうし、なんでいま『シルバー事件』なのかなあと。

須田氏:
まあ、そうですよね普通は。


(以下次回)

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リリース日 2016年10月07日 (【PC】)
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