「Branching Paths」アン・フェレロ”インディゲームの次は、ゲーム業界の成り立ちを取材したい”|シシララ安藤武博のインディーズを見ずに死ねるか!#37

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小野憲史
2016年10月07日

 子供のころに日本のアニメやゲームに触れ、大学生の頃はプレイステーションで日本ゲームにのめり込んだというアン・フェレロさん。
 そこには欧米のゲームには見られない「日本らしさ」があり、今日のインディゲームにも脈々と受け継がれているという。
 はたして日本らしさ・フランスらしさとは何なのか。
 そしてインディゲームをブレイクさせるために必要な「魔法」とは。

 ドキュメンタリー映画「Branching Paths」を撮影し、いまや日本でもっともインディゲームに詳しい人物となったアン・フェレロさん。
 かたや毎週月曜日にニコ生「ゲームDJ・安藤武博の、つくった人がゲーム実況」を配信し、ゲーム業界に幅広い人脈を持つシシララ安藤武博氏。
 対談の後編を迎えて、内容はさらにディープなものになっていった。

「Branching Paths」アン・フェレロ”インディゲームの次は、ゲーム業界の成り立ちを取材したい”|シシララ安藤武博のインディーズを見ずに死ねるか!#37
▲写真左から「Branching Paths」の監督Anne Ferrero(アン・フェレロ)氏、シシララ代表・安藤武博氏

『ゼルダの伝説』『ドラゴンクエスト』に見る「日本らしさ」

★アンさん:
(フランスらしさ、日本らしさという質問に対して)
フランス人はなんでも文句を言うというか、批評精神が半端じゃないです。
いい方を変えれば、自分の意見を持っているということで、学校教育の影響かなあと思います。
日本だと学校で正しいか否かを○×で学びますよね。
でもフランスだと全部作文です。
ある本を読んだり、教科書に書かれていることについて、どう思うのか、いつも意見を出さなくてはいけない。
哲学の授業では、ある事象について、テーゼとアンチテーゼを述べて、最後に自分なりの結論を提示させる。
いろんな授業が、全部作文につながるんです。

★安藤氏:
日本の哲学倫理の授業と全然違いますね。
日本だとプラトンがいた、アリストテレスがいた、ゲーテがいた、彼らはこうした哲学を打ち立てと、まず哲学史を学ぶんです。
どのような思想だったかまで掘り下げて覚えている学生は少ない。

テストも当然、そうした知識を問うものになります。
○×を越えたところにフランスらしさがあって、そこから個人主義や自由主義みたいなものが生まれるんでしょうか。
逆に日本らしさって、どのように感じられますか?

★アンさん:
日本には職人魂のようなものを感じます。
『アスタブリード』にも、一つのものを究極まで研ぎ澄ませたいという感じがありますね。
たとえばコップ一つ作るにしても、ただのコップじゃなくて、究極のコップを作るために、何十年もコップを作り続けるみたいな。

★安藤氏:
ああ、なるほど。
フランスでも生涯をかけて一つの仕事をする人はいますよね。
香水を調合したり、ワイン作りなど。
それとは、違うんですか?

★アンさん:
難しいですね・・・。
確かに、海外にも職人魂を持っている人はいます。
でも日本は考え方というか、ものごとの根本に職人気質があるような気がして。
そこには、メディアの影響もあるんじゃないでしょうか。
ある事象に対して、それをどんな風に取り上げて紹介するかみたいな時に、それを感じます。
「最高の職人が究極まで磨き上げた逸品」みたいな取り上げ方って、普通にありますよね。

★編集部:
同じ洗練のさせ方でも、ゲームエンジンを作るのか、ジャンプのボタン感覚を研ぎ澄ますのか、みたいな感じなんでしょうか?

★安藤氏:
なかなかに奥が深いですね。

★アンさん:
あとは細部にこだわるところがありますね。
『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』で、木を切ったり、草を切ったりできますよね。
でも、別に切っても切らなくても、ゲームの展開に関係はないじゃないですか。
特定の魔法をかけると、頭が玉ねぎみたいになったりもしますが、これも同じです。
『ファイナルファンタジーVII』でも、ある街にだけトイレがあって、これもどうしてという。

★安藤氏:
たしかに『ファイナルファンタジーVII』では、スノーボードや潜水艦など、普通のRPGに入ってないようなミニゲームがたくさんありますよね。

★アンさん:
もちろん海外のゲームにもそうしたミニゲームはありますが…。

★安藤氏:
細部に対するこだわりが尋常ではない。
神は細部に宿るといわれていて、一見して関係ないようなところまで気をつかって手を加えないと、全体が良くならないという考え方はありますね。

★アンさん:
ゼルダだったら、ニワトリをつかまえたりとか。
怒って襲ってきたりもしますよね。

★安藤氏:
確かに、ゲームの進行には関係ないけれど、これ入れたら面白いんじゃない? といったことを、積極的に入れたがるところはありますね。
『ドラゴンクエスト』(1986年、ファミコン、エニックス)はまさにそうで、立て札に「西にいけば○○、東に行けば××」と書いてある。
でも、その裏側にはわざわざ、

「しかし こっちは うらがわ。
かいてあるもじが よめない」

とも書いてあるんです。
道案内としては、何の意味もないけれど、そっちの方がおもしろいでしょ、という。
そこは日本らしいかなと思います。

★アンさん:
まさに、そんな感じです。

★安藤氏:
では話を変えて、日本のインディシーンに対して、こんなものが欲しいとか、こんなゲームがあったらわくわくするというようなものがあれば、聞かせてください。
自分自身が日本人だから、よくわかってないところがあるんですよ。

★アンさん:
残念ながら本編では編集の結果、収録できませんでしたが、『はーとふる彼氏〜希望の学園と白い翼〜』(2011年、PC/PS4などに移植、PigeoNation Inc.)みたいなゲームがもっと出てきて欲しいですね。

★安藤氏:
恋愛ゲームなんだけど、自分以外がすべて鳥だという。
あれは奇抜でしたよね。

★アンさん:
最近ではビジュアルノベルも海外でどんどん作られるようになってきましたが、日本が一番世界で進んでいますしね。
メディアミックスが成熟しているのも、すごく日本らしくて。
ドラマCDを出すとか、人気キャラクターのランキングを発表するとか。

★安藤氏:
『はーとふる彼氏』を見て、アンさんにはすぐに理解できるものなんですか? 
普通の外国人のプレイヤーだと、気持ちが悪いと思っちゃうんでしょうか。

★アンさん:
「なにこれー?」っていうか。
変だからこそ遊んでみたいという気持ちはあると思います。

★安藤氏:
昔、韓国で女の子の頭が植えられている植木鉢を育てる『Tomak〜Save the Earth〜Love Story』(2001年、PC/PS2に移植、Seed9)というゲームがあったんですよ。
あれを見た時の日本人の感覚に近いのかなあ。
日本人からみても奇妙で、それだけに話題になって、ローカライズされて日本でも発売されました。
ちなみに『はーとふる彼氏』に関する取材映像は、なぜ本編に入らなかったんですか?

★アンさん:
とにかく情報が多い映画なので、ゲームにあまり詳しくない人が見ても、すぐにわかるようなものにするように心がけました。
大前提として、最初のバージョンは6時間もありましたから。
その結果、『はーとふる彼氏』も削除することになってしまったんです。

★安藤氏:
そこはアンさんの判断で編集されたんですか?
もともと配信メインで、劇場公開される作品ではないので、極端な話、いくらでも長くできるじゃないですか。

★アンさん:
そこは一緒に作った人たちと、ケンケンガクガクで議論しました。
何度も編集して、試写して、また削って。
すごく迷いましたね。
海外の普通のゲームファンが見て、ちゃんと内容が理解できるだろうか・・・そこが編集のポイントでした。

★安藤氏:
ゲームファンと、それ以外の視聴者で、反響の違いはありましたか?

★アンさん:
まだPlayismとSteamでしか配信されていないので、ゲームファンしか見ていないと思います。
他のプラットフォームでも配信することを検討中です。それが実現したらライトユーザーの声も聞けるかもしれません。
今のところ「情報量が多い」という声はありましたが、「難しすぎてわからなかった」という声はないですね。

★安藤氏:
映画にはディレクターズカットみたいなものがありますよね。
もし「完全版」みたいなものが作れるとしたら、どんな素材を入れますか?

★アンさん:
もし、そうした機会があれば、テーマごとにサブバージョンを作るのも良いですね。
同人ゲームとか、ニコニコ自作ゲームフェストか、テーマを絞って。
実際にインタビュー素材はたくさんありますので。

クリエイターのシンクロニシティ

★安藤氏:
率直に、撮って良かったなと思いましたか?

★アンさん:
『LA-MULANA』のクラウドファウンディングや、『Downwell』のリリースを追いかけられたのは良かったですね。

★安藤氏:
確かに、この映画でもっぴん君の顔つきがどんどん変わっていきますよね。
サクセスする前後で、男の子ってこんなに変わるんだと、印象的でした。

★アンさん:
『LA-MULANA』も同様で、Kickstarterの前後で楢村さんの表情が違います。
そんな風に皆さんがどんどん変わっていくことに、自分自身が驚いてます。
実際、楢村さんはKickstarterのプレッシャーがすごくて、大変そうでしたね。
一方で『Mighty No.9』(2016年、PCなど、ディープ・シルバー)の発売まで追いかけられなかったのが残念でした。
もともと今年の1月に発売する予定で取材を進めていましたので・・・。

★安藤氏:
『Mighty No.9』の稲船敬二さんは、さっきのインディにおける3パターンでいえば、まさに1番目を象徴する方ですよね。
『Bloodstained: Ritual of the Night』(開発中、PC、ArtPlay)の五十嵐孝司さんなどもそうです。
それまで『Megaman』『Castlevania』を作られていた方々が退職後も、これまでの個性を活かしたコンセプトでゲームを作られているわけです。
ああいったスタイルはアンさんから見て、いかがですか?
日本人からみると、お金の集め方はインディだけど、ゲームの中身は大手の作り方を踏襲されていて、インディーズでも変則的だなと感じる人もいます。

★アンさん:
インディーズの定義は人によって違いますよね。
でも、作者が作りたい物を作っているのであれば、インディーズじゃないかなと思います。
ドキュメンタリーで五十嵐さんが「ビッグインディ」といういい方をしていますよね。
それに海外ではインディがソニーやマイクロソフトと組んでゲームを出すのも珍しくないですし。

★安藤氏:
作りたい物を作れているかどうかが重要だと。
この連載では毎回、この質問をしていますが、たしかにそうですね。

★アンさん:
そういえば、はじめて五十嵐さんにインタビューのメールを出したとき、返信メールの冒頭で「こんにちは、五十嵐です。無職です」と書かれていたのが印象的でした。

★安藤氏:
まだクラウドファウンディングをはじめる前だったんですね。

★アンさん:
あと、今年のBitSummitでは、一人でずっとテストプレイの様子を観察されていましたよね。
すごいなあと思って。
本当に一人で参加されていて、びっくりしました。

★安藤氏:
五十嵐さんは体が大きくて外見もいかついですからね。眼光も鋭い。
お話ししてみると、とても穏やかな方ですけど。
あの迫力のある容姿で横からじっと見られると、緊張しますよね。

★アンさん:
また、『アスタブリード』のなるさんと、『宇宙戦士ガラクZ』(2015年、プレイステーション4など、17-BIT)のジェイク・カズダルさんとでは、生まれも育ちも全然違うのに、シューティングゲームを作っている人同士だからか、考え方や言っていることが近かったですね。
これも、すごくおもしろかったです。

★安藤氏:
過去の対談でいうと『Block Legend』のアルヴィンさんと栗原さんもそういう感じでしたね。
海外からやってきた人と、日本の玩具メーカーにいた人が、なんとなく出会って、ゲームを作った。
その時にゲーム体験やカルチャーが似ていたのか、わからないんですが、アウトプットされるもののシンクロニシティが高い。
それはすごくおもしろいですよね。

★アンさん:
私も吉祥寺のピコピコカフェにいきましたが、もっぴんさんがプレゼンを始めた時は、単純に「この人、英語がうまいなあ」という感じでした。
それがゲームが出てきたら、ヤバイって感じで。
あの時はソニー・インタラクティブエンタテインメントの伊東章成氏さんと、ゲームメディアの方がいらしていて、みんなで「ヤバイ、ヤバイ」って。

★安藤氏:
東京インディフェスで出展されていた『Downwell』を見たとき、圧倒的に目立っていました。
おもしろさも段違いだったので、「これを作ったのは誰だ?」というところから、連載が始まったほどです。
わざわざプレゼンされなくても、気づくくらいのインパクトがありました。
しかも話を聞いてみたら、ほとんど1人で作っていて、ゲームを作り始めて間もなくて、音楽大学で声楽を専攻していてと、聞いたことのないエピソードばかり。

★アンさん:
すごかったですね。
同じようにゲーム作りの経験がなくても、ネットとか書籍とかで知識を得て、ゲームを作りはじめた方も増えてきました。

★安藤氏:
映画を撮っていて、ゲームの作られ方が変わってきたように感じられましたか?

★アンさん:
そうですね。
一番重要なのは、ゲームがダウンロードで販売できるようになったことですね。
あとはUnityなどの普及で、本を買えば誰でもゲームが作れるようになりました。

★安藤氏:
海外のインディゲームでアンさんが好きだったり、最近気になるゲームはありますか?

★アンさん:
正直いって仕事がすごく忙しくて、あまりゲームを遊ぶ時間がないんです。

★安藤氏:
そうですか(笑)

★アンさん:
その中でも、Capy Gamesの『Below』などは、すごくビジュアルが綺麗ですね。
『スキタイのムスメ:音響的冒剣劇』を作った会社が、今はアクションRPGを作っていて、それも楽しみなゲームの一つです。
そういえば『No Man's Sky』(2016年、プレイステーション4など、ソニー・インタラクティブエンタテインメント、開発Hello Games)と同じようなコンセプトのテキストアドベンチャーを、友人が作りました。
宇宙空間がプロシージャルで作られていて、ぼろぼろの戦闘機でいろんな星を巡るという内容で、iPhone向けにそしてSteam向けに開発されていした。
いまこの友人の新作を待っています。
(「mi-clos studio」http://www.miclos.com/

日本のインディには「魔法」がない

★編集部:
そういえば、劇中で語り部であるアンさんが少し引いた立ち場にいて、淡々と事実を記録されていたように感じられましたが、意識してそう編集されたのですか?

★アンさん:
はい、そうですね。
いろんな理由がありますが、私にとって最初のドキュメンタリーだし、日本文化を題材にしたドキュメンタリーを外国人が撮るわけだし、自分のポジションがどうあるべきか、すごく考えました。
最終的にたどり着いたのが、自分の意見を主張するよりも、みんなの意見を拾い上げて、議論になるきっかけになるような作品にすることでした。

★安藤氏:
アンさん自身は率直に、今の日本のインディシーンをどう捉えていますか?

★アンさん:
インディシーンがうまく回っていくための「魔法」がないですよね。

★安藤氏:
おもしろい表現ですね。

★アンさん:
何かを後押しするための、ブーストになるような要素というか。
そのためにはゲームを作ることも大事ですが、コミュニティ作りも大事ではないでしょうか。
イベントを作ったり、コミュニティを作ったり、情報を共有したりすることが重要で、そういったことに欠けているのが、日本のインディシーンの一番の課題だと思いますね。
これが海外だったら、インディゲームのしっかりしたコミュニティがあって、イベントのために遠方から来た開発者を、自分たちの家に泊めてあげたりしています。
それだけで予算的に、すごく助かるじゃないですか。

★安藤氏:
はいはい。

★アンさん:
逆に日本のインディーズが海外のインディーズと仲良くなって、お互いにイベントで人を紹介し合ったり、メディアを紹介し合ったり。
そういうのが非常に重要だと思います。
たとえばVlambeerというオランダのゲーム会社があって、ラミ・イスマイルという人が、世界中のインディをつなげるような取り組みをしていて。
その一つがインディゲーム開発者用の専門ポータルサイトです。
そのポータルをみれば、世界中のイベントの開催日と、アワード応募の締切がわかりますし、世界中のゲームメディアのリストも無料でダウンロードできます。
プレスリリースのひな形まであります。

★安藤氏:
たしかに、プレスリリースの書き方は、初めはわからないですしね。

★アンさん:
あとはゲームの開発に役立つニュース、たとえばUnityでどんなアセットが期間限定で無料ダウンロードできるとか。
日本はそういうものが、まだまだないですね。
これは出展者側も同じで、せっかくイベントでブース出展しているのに、英語の情報がまったくなくて、すごく勿体ないなあと思うこともありました。
簡単な英語でいいから、紙に遊び方を書いておくとか。
いつごろ発売予定だとか、それこそ「遊んでください」だけでも英語で書いておけば、それだけでもコミュニケーションが違いますし。
BitSummitでも、そういう話になりました。

★安藤氏:
さっき言われていた「魔法」も、そうした小さいことの積み重ねでできているということですね。
たしかにゲーム産業が大きくブレイクする時には、魔法が生まれます。
インディーズに今、一番ないものがそこだと思います。
逆にVRには魔法のようなものがある。
資金だったり、イベントだったり、みんなが何か作りたくなるような環境があります。
でも日本のインディゲームは、みんなが細々とバラバラにやっていて、たまに交差するけど、大きい広がりはまだまだこれからという感じがしますね。

★アンさん:
実際、デベロッパーがゲームの宣伝のためのホームページを作ったら、そこにちょっと英語を載せるだけでも全然違いますし。長いテキストだったら難しくても、小さいテキストであれば、友達とか、知り合いに頼んで訳してもらって、お礼に居酒屋でおごってもいい。
だからコミュニティが必要なんです。

★安藤氏:
そういったものを作っていくと、だいぶ変わるって感じなのかなあ。
日本のインディもだんだん、そういうものに気がつき始めていますよね。
帰国子女である、もっぴんも半分、海外の人みたいな感じだし。
木村さんだって海を越えるのは平気だったりする。
良いところはどんどん学んで、ちょっとずつ整えていこうかなという動きになるでしょうね。

★アンさん:
セミナーなどもCEDECやIGDAの中だけに限られていますよね。
そうしたセミナーを知っている人たちは、ゲーム業界の中の人に限られていて、インディゲーム開発者は全然知らなくて。
もっとオープンなコミュニティがあればいいですよね。
東京インディーズもその一つですし、他にもワークショップなどがあれば良いなあと。

★安藤氏:
日本人はコミュニケーションの取り方が独特だから、魔法がかかりにくいのかもしれませんね。

★編集部:
そんなふうに自分の意見をしっかり持っている、批評の国からやってきたアンさんが、ドキュメンタリーでは自分の意見を抑えられているところが、また興味深いですね。

★安藤氏:
僕は淡々とナレーションが入るところも、けっこう好きですよ。

★アンさん:
実はナレーションもすごく悩みました。
そもそも日本語にするか、英語にするか、フランス語にするか・・・。
私の英語はフランスなまりが強いし、日本語版のテキストも作ってスタジオで収録までしましたが、どうにもダメで。
もともと大きな声でテキストを読むのが苦手なんです。
4時間くらいかけてテストして、やっぱりダメだということになって、フランス語にしました。
そんなふうに、なんだかすごく変な作品になっちゃったかもしれません。

★安藤氏:
そんなことはないですよ。
難解なところはまったくありませんし。
まだメディアがSteamとPlayismだけなので、見た人が少ないと思うんです。
この対談記事をきっかけに、もっと多くの人に見てもらえるといいですね。
日本のインディがやっていかないといけないことを、すごく客観的な立ち場から指摘していただいて、ありがたいです。

日本のクリエイターと散歩する「toco toco」

★安藤氏:
さて、「Branching Paths」の製作が一段落されて、今はどんな仕事をされていますか?

★アンさん:
いまレギュラーでやっているのは、「toco toco」という番組です。
来日してからずっと続けている番組で、フランスでは隔週で放映されています。
数年前からYoutubeでも英語字幕付きで見られるようになりました。
日本のクリエイターに自分のお気に入りの場所を紹介してもらうという、10分くらいの番組です。


★安藤氏:
それはゲームに限らずですか?

★アンさん:
はい、ミュージシャンとか、イラストレイターとか、漫画家とか、あらゆるジャンルのクリエイターで、もう100本以上とりました。
ゲームクリエイターでは須田剛一さん、アークシステムワークスの石渡太輔さん、『グラビティデイズ』の外山圭一郎さんに出演いただきました。
今はミニドキュメンタリーみたいなテイストに変わりましたが、5年間はほんとにアングラな散歩番組みたいな感じで。

★安藤氏:
どういった場所に行かれるんですか?

★アンさん:
東京近郊で、その人が好きな場所や、影響を受けた場所なら、どこでもですね。
好きなバーとか、公園とか、変わったところだと鍾乳洞とか。
中央線のラッシュアワーを紹介したいという人もいましたね。

★安藤氏:
おもしろいなあ。
ちなみに「トコトコ」というオノマトペはフランス人からすると、どんな感じですか?

★アンさん:
おかしくて、覚えやすくて、ポジティブに受け止められています。

★安藤氏:
他に日本のゲームシーンで取り上げてみたいものや、取材したいテーマはありますか?

★アンさん:
「toco toco」では日本のアニメーションの第一世代で、83歳の方にも出ていただきました。
同じように日本のゲーム業界の黎明期の方を取材できれば、おもしろいなあと。

★安藤氏:
会ってみたい人はありますか?

★アンさん:
みんな宮本茂さんに取材したがっていますね。
あとは中村光一さんとか、岩谷徹さんとか。

★安藤氏:
『聖剣伝説2』がお好きでしたら、先輩の石井浩一さんもご紹介できますので、お声がけください。俺も久しぶりにお話ししたい。

★アンさん:
ありがとうございます。
そういえば昔、菊田裕樹さんに取材させていただいたこともありました。

★安藤氏:
ゲーム音楽の番組の時ですね。
宮本茂さんも、堀井雄二さんも、バリバリ現役ですが、気がつけばもう60歳を超えられています。
その企画は、急いで進められた方が良いかもしれません。
『ドラゴンクエスト』の作曲者で知られるすぎやまこういちさんは、85歳。
日本のエンタテインメントシーンで、重要かつユニークなキャリアをもっている方なので、ぜひインタビューされることをお勧めします。

★アンさん:
ゲームクリエイターだけでなく、ゲーム会社を作った人もおもしろいですね。
まだ何もないのに、どうしてテレビゲームをはじめようと思ったのかとか。

★安藤氏:
取材を受けるかどうかはわかりませんが、エニックス創業者のの福島康博さんはご紹介できますよ(笑)
スクウェア・エニックスは今でこそ連結で4,000人いますが、僕が入った頃の旧エニックスは100人の規模で、みんな家族みたいな感じだったんですよ。
僕はアンさんが聞きたい方たちのお話しを、同じ職場で直接聞いたことがある最後の世代。
とてもおもしろい話が満載で、記録に残したいエピソードばかりで、とても良い企画になると思いますよ。

★アンさん:
ありがとうございます。

★安藤氏:
僕みたいに作り手が作り手に聞くというのもありますが、アンさんみたいに外国人の方に聞かれると、より胸襟が開いてもらいやすいところもあります。
普通のゲームメディアでは聞けないようなことが聞けると思います。

『ドラゴンクエスト』を作った千田幸信さんという、大先輩のプロデューサーがいます。そうした伝説級の方に「ドラゴンクエストをどうやって作ったんですか?」と、聞ける機会が僕の世代にはありました。
意外な答えが返ってきたんですよ。
「We are the world」にインスピレーションを受けたんだそうです。

★アンさん:
本当ですか?

★安藤氏:
普通は、そう思いますよね。
同時に「プロデュースとはどういうことですか?」という質問もしました。
千田さんは明確に「時代を切り取ることだ」と答えてくださいました。

「『ドラゴンクエスト』はどうやって時代を切り取ったんですか?」と重ねて聞いたら、ある日「We are the world」を聴いて、曲もさることながら、制作手法に衝撃を受けたそうなんです。
豪華アーティストが集まって、一つの曲を作ってもいいんだと。
こういったものが世の中の人のハートを鷲掴みにするんだったら、それをゲームでやってもいいんじゃないかなというのが、発想の原点だったそうです。
それが一つのゲームにスーパースターを集めるという発想になり、堀井雄二さんと中村光一さんと、すぎやまこういちさんと、漫画「ドラゴンボール」の連載を始めたばかりの鳥山明さんでが集まった。ゲーム版の「We are the world」を作ろうと。そう言ったお話をしてくださいました。

★アンさん:
そうだったんですね。

Branching Paths、タイトルの秘密

★安藤氏:
直接聞くと出てくるんですよ。
僕はそういう話を直接聞ける機会があったので、できる限り伝えていきたいですし、アンさんもぜひ。
これからも日本で活動されていくんですよね?

★アンさん:
はい、そうですね。

★安藤氏:
だったらチャンスも広がりますね。
実際、ゲーム産業の黎明期はとてもワイルドな時代だったので、ものすごい話がどんどん出てくると思います。
もともとゲームが産業としてなかった時代に、ビジネスとして儲かるんじゃないかというところからからはじまっていますからね。
エニックスも最初は公団の住宅情報誌を配布する事業から始まったんです。
ロボットに寿司を握らせる回転寿司のビジネスもやって、失敗して。
その後パソコンのハードを売る仕事をはじめて、ソフトの方が儲かることに気がついて。
賞金付きのソフトコンテストを開催したんですよ。
実際には応募がなかなか来ないから、一人ずつスタープログラマーと呼ばれた人たち等に声をかけていって。
ようやく形になって受賞作が生まれたら、それがきっかけとなって、後はどんどん周りから作品と人が集まるようになって、大きくなっていくんです。

★アンさん:
おもしろいですね。

★安藤氏:
パソコンサークルでゲームをカセットテープにダビングして販売をしてみたら、日本中から現金書留が集まって・・・というところから大きくなっていったのがハドソンです。
そういう話を知っている人たちも、どんどん少なくなってきていますしね。
それを伝える機会もまだ少ないので、そういう役割も担ってくれると嬉しいなと思います。
そういう意味では、今回の映画はきっかけになるし、日本のゲームの歴史版みたいなものがあれば、Netflixなどでもみんな見だろうし。

★アンさん:
海外の人もすごく盛り上がると思います。

★安藤氏:
漫画はあるんですよ。
藤子不二雄先生の「まんが道」や、手塚治虫先生も自伝的な作品をいくつも書かれている。
「漫画ってこうやって描くんですよ」「漫画ってこんなふうに発展してきたんですよ」的な作品が多いんです。
でも、ゲームはまだ少ないんですよ。
ホントは堀井雄二さんや、宮本茂さんが本を書くべきなんです。まだそういう文化がなかったり、本人は制作に忙しいですからそういうモチベーションがなかったり。
ゲームを知るために何を読んだら良いのとか、どういう作品を見たら歴史がわかるかというものが、不在なんです。
そういうものが、この映画をきっかけに増えてほしいなと思いました。

★アンさん:
どこまでできるかわかりませんが、挑戦してみたいですね。

★安藤氏:
ぜひ。
「Branching Paths」ではインディゲームにスポットライトが当たったので、次は大手のゲームメーカーがどんな風に成立していったのか、そんな映画を見たいですね。

★アンさん:
ありがとうございます。

★安藤氏:
そういえば、聞こう、聞こうと思って忘れていた質問がありました。
どうして「Branching Paths」というタイトルにしたんですか? 
すごく良いタイトルです。
他にもたくさん候補があったと思いますが?

★アンさん:
映画の発表寸前まで悩んでいました。
実際、100個くらい候補があったんです。
ただ、オーソドックスなタイトルにはしたくなかったんです。
仮タイトルは「リブート」でしたが、関係者の誰も気に入っていなくて、絶対に止めようと思っていました。

★安藤氏:
それはなぜですか?

★アンさん:
リブートって、何か現状で問題があって、それが一回終わって、新しい何かが始まるという意味がついてしまうので、それはちょっと違うなあと。
日本語の言葉を使うアイディアもあり、「閃き」という候補も出ました。
ただ、日本向けにも海外向けにも今ひとつな感じがしたんですよね。
最終的に一緒に作った製作会社のデザイナーが「「Branching Paths」はどうだろう」とアイディアを出してくれて。
ゲーム内の専門用語(=選択肢、選択ルート)だし、抽象的だし、いいんじゃないかなと。
ただ、それが決まったあとも、日本語で書くか英語で書くか、けっこう悩みました。

★安藤氏:
そうか、ダブルミーニングにもなっているんですね。
あと、タイトルロゴが表示されるところのアートワークは誰が描かれたんですか?
無国籍風な感じがして、気になっていました。
すごくいいですね。

★アンさん:
utamaruさんといって、日本人の女性のデザイナーです。
すごい映画フリークで、B級映画が大好きで。
「toco toco」の取材で知り合って、描いて貰いました。
アニメ風でもあり、リアルっぽくもあるところが、ぴったりかなと。

★安藤氏:
そうですね。
「toco toco」きっかけだったんですね。

★アンさん:
100回くらい番組を作ったので、かなり知り合いが増えました。

★安藤氏:
アンさんの人脈を総動員して作られた映画ですね。
偶然始まったにしては、思いがけず大きな作品になりましたね。

★アンさん:
なにかしら、誰かの役に立ったら良いなあと思いながら作りました。
実際にそこまでの作品になったかどうかはわかりませんが、作り手にもユーザーにも、何かしら影響が与えられたら良いなあと思います。

★安藤氏:
僕の経験だと、そういう人が現れるまで、だいたい作ってから10〜15年かかります。
子供の頃に遊んで、すごく影響を受けたとか。
これがきっかけでクリエイターの道に進んだとか。
その頃には日本のゲーム全体のドキュメンタリーが完成していると良いですね。

■安藤武博 関連リンク
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安藤武博 Twitter
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ジャンル その他 /
リリース日 2016年07月29日 (【PC】)
価格 980円(税込)
コピーライト © 2016 ASSEMBLAGE & Anne FERRERO. All rights reserved.
公式コミュ
PRサイト http://branchingpaths.jp/
 

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