[CEDEC2016]人間と遊んで楽しい『人狼』ゲームAIをどう作る? 人工知能学会とのコラボで開催された人狼知能大会セッションレポート

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小野憲史
2016年08月28日

 CEDEC2015で初めて開催され、大きな注目を集めた「『人狼知能』大会」。
 将棋や囲碁AIがプロ騎士に肩を並べるまでに成長した今、新たな研究分野として設定された『人狼』ゲームのAIを競う場として、人工知能学会の主催で行われたコンペティションです。
 昨年に引き続き2016年は、『人狼知能AI』の大会実施はそのままに、「人間と対戦できる人狼知能AI」の開発を巡って、3名の研究者によるパネルが開催されました。
 それが「[人工知能学会×CEDECコラボセッション] 人狼知能大会セッション」です。

 心理学・自然文解析・エージェント開発という3つの分野で、さまざまな知見が共有されました。

不完全情報&記号化困難ゲームへの挑戦

[CEDEC2016]人間と遊んで楽しい『人狼』ゲームAIをどう作る? 人工知能学会とのコラボで開催された人狼知能大会セッションレポート
▲鳥海不二夫氏

 はじめにモデレータをつとめた東京大の鳥海不二夫氏が、大会の意義と現状について整理しました。
 テレビのバラエティ番組でもとりあげられるなど、高い人気を誇る『人狼』ゲーム。「村人の中に紛れ込んだ『人狼』を会話によって見つけていく」パーティゲームです。

 囲碁や将棋がすべての情報がつまびらかになっており、ルールに即したコマの動きの連続で進めていくのに対して、『人狼』では隠された情報を会話という、アナログなやりとりで推測していく点に特徴があります。
 囲碁や将棋が「完全情報&記号化ゲーム」なら、人狼は「不完全情報&記号化困難ゲーム」だといえるでしょう。
 もっともAI同士の対戦なら話は簡単で、共通のプロトコルを介して自動対戦が可能です。大会でも1セット100回の対戦で合計10万回の対戦を行い、勝敗を決しています。

 しかし「人間と対戦できる」AI、そして「人間と対戦して楽しい」AIの開発となると話は別です。
 モデレータをつとめた東京大学の鳥海不二夫氏も、ようやく人狼知能構築の礎ができたレベルだと説明。
 『人狼』ゲームに必要な「人間を騙す・嘘を見破る・説得する人工知能」の開発のために、さまざまな知見を集約することが重要だとしました。

『人狼』の心理学

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▲丹野宏昭氏

 はじめに登壇した東京福祉大学の丹野宏昭氏は心理学の立ち場から、「嘘を見破る」AIの開発に必要な知見について解説しました。

 丹野氏は「大前提として人間は他人の嘘を見破るのがそれほど上手くない」と解説。その中でも「しぐさ」のような非言語的な情報よりも、言語内容から判断した方が嘘を上手く見破れると語りました。

 「目をそらす、瞬きが増えるといった行動は、自分の意思でコントロールしやすく、嘘をつくときの緊張による影響か、単なる緊張からなのか、区別がつきません。
しぐさは個人差が大きいという問題もあります。
 その中でも嘘をつくと瞳孔が拡大することが知られていますが、それでも影響は小さいのです」(丹野氏)。

 実際、確実に嘘を見破るなら嘘発見器が有効で、脳波測定と併用すると90%近くの嘘を見破れると言います。

 一方で『人狼』ゲームでは他人を説得することも重要です。
 説得力を増すには主張の一貫性などに加えて、主張の根拠がわかりやすいことが寄与することが知られています。

 また「男性よりも女性の芳が説得されやすい」「知性が低い人は議論がわかりにくいと説得されやすい」「自尊心が高くても低くても説得されにくい」「不安が高いと説得されにくい」などの傾向もあるとのこと。
 もっとも、他人はガンガン説得する一方で、自分は説得されにくいプレイヤーは、『人狼』ゲームで嫌われるタイプです。遊んでいてつまらないからです。

 丹野氏は「『人狼』ゲームの基本的なおもしろさの一つに、“他者を説得する”楽しさがある」と指摘。そのためには「信頼を信頼で返す」という人間関係の基本的なルールが共有されていることが必要だとします。
 こうしたことから「嘘が見破れるか否かは嘘発見器の精度による」「人間よりも説得力の高いAIは開発できるだろう」と語る丹野氏。

 一方で、人間と遊んで楽しい人狼知能を作るには、「人間の説得によって人工知能が気持ちよく“説得される”か否か」「適度な強さを提示できるか」が鍵だと指摘しました。

人狼における自然言語処理

[CEDEC2016]人間と遊んで楽しい『人狼』ゲームAIをどう作る? 人工知能学会とのコラボで開催された人狼知能大会セッションレポート
狩野芳伸氏

 続いて静岡大学の狩野芳伸氏が、「『人狼』における自然言語」の可能性について解説しました。

 『人狼』には現在、対面でプレイするものと、ウェブの掲示板システムなどを用いて、テキストベースでプレイするものの二種類があります。本研究でも最終的には対面プレイに耐えうるAIが目指されていますが、まずはテキストベースでのログをもとに、議論が行われました。

 人と楽しめる人狼AIを作るためには、コミュニケーションを自然文ベースで行う必要があります。しかし、これを実現するAIを作るには非常に困難だと狩野氏はあかします。

「主語と述語の対応がわかりにくい/しばしば主語がない」「文章の前後関係がわかりにくい」といった日本語特有の事情から、固有名詞のタイプミス、文末の「。」の欠落といった人為的ミスまで、原因は様々です。
 そしてなにより「断定を避ける」「間接的に他人を誘導する」といった、『人狼』ゲームならではの、メッセージの「わかりにくさ」があります。

 この分野では最近流行の機械学習もアテになりません。そもそも会話には正解がなく、機械学習で必要な情報の判定ができないからです。
さらに「文分割」「形態素分割・解析」「固有表現抽出」といった各段階で、それぞれ一定の間違いが含まれるとすると、全体の解析率は各々のかけ算になるため、最終的な正答率がかなり下がることが予測されます。

 他にも音声認識・文理解・プレイヤー間の関係把握・人狼ゲームの暗黙的な共通認識・勝つための戦術構築・自然文生成・音声合成など、人とコンピュータが自然に対話する上で求められる研究課題はつきません。
 もっとも、だからこそ挑戦しがいのある分野だとも言えます。

 狩野氏は「やりやすい研究テーマから、一つずつ積み上げていくしかない」とコメント。興味がある人がいれば、ぜひ一緒に研究しましょうと呼びかけました。

人狼バーチャルエージェント

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▲片上大輔氏

 かりに人間と対戦できる人狼知能AIが完成したとして、情報のやりとりはどのようにすればいいでしょうか? メッセージのやりとりだけでなく、人間と同じようにふるまうアバター的なキャラクターが求められるのは明らかでしょう。

 では、どのようなふるまいをみせると、より『人狼』ゲームのプレイヤーとしてふさわしくなるのか。

 東京工芸大学の片上大輔氏は初音ミクのアバターをもちいた擬人化エージェント仲介対戦システムを開発し、これを通して『人狼』ゲームをプレイした結果、得られた知見について共有しました。

 この擬人化エージェントでは、人間がミクのアバターを用いて、実際の対戦のようにテキストメッセージでやりとりしたり、さまざまな仕草を行いながらプレイを進めていきます。
 また、人狼知能AI対戦のログを読み込み、発話や仕草などを表出しながら、対戦を再現することもできます。

 しかし当初のバージョンでは、今ひとつ違和感が感じられました。
考察の結果「視線が動かないからだ」と仮定した片上氏は、実際に人間同士で『人狼』ゲームを遊んだ時の様子をビデオに録画し、映像を解析。

 その結果『人狼』ゲームのプレイヤーの視線移動には「他プレイヤーをまんべんなく見わたす“見渡し型”」「発話者に視線が向きがちな“追随型”」「他プレイヤーとあまり視線をあわさない”自己完結型”」の、3パターンがあることがわかりました。

 これをもとに視線移動の機能を組み込んで実験したところ、総じて違和感の減少に貢献できたとのこと。

 現在はキャラクターの顔にFaceRigをくみこみ、より自然な仕草を見せられるようになっているそうです。
 今後も研究を続けていき、将来的に人間最強の『人狼』ゲームのプレイヤーとAI最強のプレイヤーが、仕草や自然言語をふくめて同じ土俵で対戦する様子を、大勢で観戦したいと抱負が語られました。

 このように人狼知能の開発には「強い『人狼』ゲームのAI」を「人間プレイヤーとの関係性」の中で作るという、2つの大きな柱があります。
前者は「人狼知能」大会を通して。後者はさまざまな分野の研究者の知見を持ち寄って。
 壮大なグラウンドチャレンジの行く末が注目されます。

 

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