[CEDEC2016]デジタルゲームとアナログウォーゲームの知見断絶を埋める「“わかりやすい”をデザインする/アナログウォーゲームの知見から」セッションレポート

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小野憲史
2016年08月28日

 1970年代にブームとなり、1980年代にコアファンの先鋭化とゲームルールおよびコンポーネントの肥大化で斜陽の時代を迎え、1980年代末にシンプルでハイクオリティな初心者向けゲームで巻き返しを図るものの、歴史の闇に消えていったウォーゲーム。
 そこで得られたゲームデザインの知見は、こと日本においてはデジタルゲーム業界に、ほとんど継承されていません。
 その結果「デジタルゲームとアナログゲームの違い」を意識せず、「中途半端にアナログゲームの知見を盛り込んだデジタルゲーム」が市場で死屍累々を重ねるという悲喜劇が繰り返されてきました。
 こうした事態を打開するべく、ゲームジャーナリストの徳岡正肇氏(アトリエサード)はCEDECで「“わかりやすい”をデザインする/アナログウォーゲームの知見から」と題して講演を行い、ポイントを整理しました。

アナログゲームに見られるデジタル性

 最初に徳岡氏は「多くのアナログゲームは、実はデジタルゲームである」と切り出しました。
 アナログは連続性、デジタルは非連続性という言葉の定義から言えば、将棋は「本来連続的な平面をマス目で分割し、9×9の非連続量にしてプレイヤーに提供」するなど、情報をデジタルデータ化することで成立している遊戯です。この点において将棋はコンピュータRPGの戦闘システムなどと何ら変わるところはありません。
 つまりアナログゲームとデジタルゲームは共に「データのデジタル処理」という点で共通しています。そのためアナログゲームの知見はデータ処理の中核部分、すなわちゲームメカニクス(プレイヤーがインタラクションを通してフィードバックを得るメカニズム)のデザインで活用できる余地があります。
 その中でも徳岡氏は(時間の関係もあり)「より“わかりやすい”ゲームメカニクス設計」「ゲームメカニクスの“わかりやすい”伝達」点に絞って論を続けました。

アナログゲームの知見に学ぶべき4つのポイント

 さて、冒頭のように絶滅したと思われがちなウォーゲームですが、21世紀に入って日本でも復活の兆しをみせはじめています。
 ゲームマーケットなど、イベント主体の流通機会を得たことで、ウォーゲームは「マップが葉書一枚」「ルールとユニットとマップがA4用紙1枚に収まる」「ヘックスを廃してエリア制を採用、カラフルなユニットを使用」といった具合に、よりシンプルでわかりやすい内容に進化。新しいファン層を開拓しつつあるのです。
 そもそも「アナログゲームは人力駆動なので、ゲームメカニクスがわかりにくいとゲームプレイが成立しない」と徳岡氏は指摘します。
 その中でもウォーゲームは現実の戦闘をモチーフにデザインされているため、IPもののゲームと相性が良いという側面があります。その上で、具体的に下記の4点があげられました。

プレイヤーの立ち場を定義

 ゲーム内においてプレイヤーが何者かを規定し、すべての仕様を「プレイヤーにその立ち場を体験させるために必用か否か」で取捨選択します。

 なお、この場合の立ち場は「神のような超越者」(『Civilization』など)でもOKです。
 例として『Freet Commander NIMITZ』では、太平洋戦争におけるニミッツ提督の立ち場で進めるウォーゲームになっています。
 そしてすべてのルールがこの立ち場にそって取捨選択されているのです。

 これによって仕様のぶれを防ぐことができます。つまり、司令官の立ち場で遊ぶゲームにおいて、一兵卒が狙撃銃で敵を狙い撃つような仕様は不要であり、本当にプレイヤーに狙撃をさせたいなら、司令官という立ち場の設定が誤っているというわけです。

 なお、徳岡氏はゲームライターとしての長い経験から、21世紀以降の名作ゲームはほぼ必ず「本作においてプレイヤーは○○という立ち場になり、△△ということを行い、××という目的をめざす」というテンプレートで紹介できる(パズルなど例外はあり)と強調しました。

誇張と省略

 そのゲームが扱うテーマのうち、ゲームデザイナーがもっとも重要だと考える要素(ジレンマ構造やパラメータ管理など)を、極端なくらいに誇張して実装します。そして、それ以外の要素については、可能な限り省略します。

 例としてあげられたのは南北戦争の激戦地、ゲティスバーグの戦いをモチーフにした『Gettysburg Campain』です。
 本作ではマップでヘックス制が廃され、街と街がラインで結ばれているだけのシンプルな作りになっています。
 これは本作においてプレイヤーの立ち場が北軍・南軍の司令官であり、当時の軍隊が街道経由でしか移動できなかったことと、補給が街でしかできなかったことに起因しています。

 このことは、「ゲーム中でのプレイヤーの立ち場」の体験を弱めるような省略をしてはいけない、ということも意味しています。内容が薄いゲームになってしまう恐れがあるからです。

 その一方で、テキストやグラフィックといった、ゲームメカニクスの外側でゲーム体験を構築する要素については、メカニクスの省略を補う意味もこめて、作り込みを行うべきだとします。
このように省略と作り込みは両立するのです。

すべてのシステムに意味をもたせる

 ゲームはさまざまなルールの集合体、すなわちシステムによって構成されています。このとき、すべてのシステムに意味がなければなりません。

 ここで徳岡氏はゲームにおける「乱数」の意味について取り上げました。

 しばしばRPGなどでは「攻撃が命中すると1~16のダメージを与える武器」などが登場します。
 では、この時の「1~16というダメージ幅」は何を意味しているのでしょうか。
 仮にこれが「武器のあたりどころでキャラクターに与えるダメージが変わることを意味している」のであれば、武器が体のどこに命中したかという仕様は不要になります。
 逆に「武器のあたりどころでキャラクターに与えるダメージが変わる」仕様を入れたいのであれば、武器のダメージの範囲に異なる意味を持たせる必要があるのです。

 ちなみにウォーゲームでは攻撃判定の結果、攻撃側の撤退から防御側の全滅までを乱数で判定する仕様が良く用いられます。
 この幅は「連絡の行き違いが起きた」「空軍が味方を誤爆した」などの、ヒューマンファクターが戦闘結果に与える影響を意味しています。
 裏を返せばヒューマンファクターによる影響というルールは、この種の戦闘判定システムを用いる限り、不要というわけです。

プロトタイプから固有名詞を使う

 原作が存在する場合は特に、プロトタイプの段階から固有名詞を使ってゲームデザインを進めます。決して主人公A、ヒロインBといった記号でゲームデザインをするべきではありません。

 たとえば太平洋戦争の海戦を軍艦一隻単位で再現するゲームを作るなら、最初から「大和」は「大和」と表記するようにします。
 というのも、大和らしさを表現するゲームメカニクスをいちいち作りこむよりも、ユニットに「大和」と表記するだけでこと足りる場合が多いからです。
 これによってプロトタイプの段階で無駄な仕様を減らし、より「わかりやすい」ゲームをデザインできます。

 「大和」と表示することで表現できる「大和らしさ」で充足される領域を、わざわざゲームメカニクスでカバーする必要はないのです。

シンプルさを極めることでハマる落とし穴とは

 なお、徳岡氏はデジタルゲームとアナログゲームの最大の違いとして、「ゲームシステムをシンプルにしすぎると、プレイヤーに消費される速度も速まるため、過度なシンプルさの追求は危険」だと指摘しました。
 これは特にソーシャルゲームなどの運用型ゲームで顕著です。
 そもそも、多くのウォーゲームは100時間以上のプレイに耐えうるようにデザインされているわけではありません。その一方でソーシャルゲームでは、平気で1~2年も運用されるゲームが存在します。
極端な話、能力値が1種類で数値が5段階しかないのに、何百人ものキャラクターを創り出すのは不可能なのです。
 この点について徳岡氏はCEDECの講演「『チェインクロニクル』3年の運用と開発事例から、スマホゲームにおけるゲーム性と物語性を運用で摩耗させないその方法」で共有された知見が参考になると補足しました。

 このようにアラフォーやアラフィフのゲーム開発者にとっては懐かしい、そして若い世代にとっては新鮮な知見が満載された徳岡氏の講演。
 もっとも徳岡氏はGDCをはじめ、海外のカンファレンスではこうした知見が集積されていると言います。
 中でもGDC2016の講演「Twenty Years, Twenty Lessons」は非常に良く知見が整理されており、スピーカーのMark Rosewater氏がみずから解説した記事もあるため、ぜひ参考にして欲しいと付け加えました。

【参考】
▽GDC2016「Twenty Years, Twenty Lessons」(Mark Rosewater)
http://magic.wizards.com/en/articles/archive/making-magic/twenty-years-twenty-lessons-part-1-2016-05-30
特に下記参照
#1 Fighting against human nature is a losing battle
#3 Resonance is important
#4 Make use of piggybacking
#14 Don’t be afraid to be blunt

▽CEDEC2016 『チェインクロニクル』3年の運用と開発事例から、スマホゲームにおけるゲーム性と物語性を運用で摩耗させないその方法
http://www.gpara.com/infos/view/36865

 

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