[CEDEC2016]『Fate/Grand Order』は一般的なソシャゲとは正反対な企画運営を行う。一番大切なのは、「Fate」作品の世界に没入するプレイヤーにいかに喜んでもらえるか
最重要視するのは売上といったKPIではなく、TYPE-MOON作品の世界観を出せるのか
通常、プレイヤーの継続率や、課金率といったデーターは、ソーシャルゲームにおいては非常に重要な情報になる。課金者数の割合やユーザーのアクティブ率などからどのようにしてそのゲームを進めていくか決める大きな指針となるからだ。これは、企業としてあたりまえのことだと思う。
しかし、塩川さんは「KPIはなんの参考にもしていない」と断言する。塩川さんが大切にするのは「TYPE-MOONの世界観を愛するプレイヤーの没入感」だとのこと。
塩川さんが『FGO』に参加したのは、リリース後だったとのことで、当時はたくさんの問題があったという。そこで、それぞれの問題を紐解き、再構築していく際にTYPE-MOONと協議を重ね、彼らが一番反応の良い形にしてきたとか。
というのも、塩川さん曰く「『FGO』の超コアプレイヤーはTYPE-MOON」とのことからだ。
『FGO』のコアファン代表であるTYPE-MOONが納得できないものでないと、ファンが納得する作品に仕上がることはないし、ファンも納得がいかない。なので、売り上げなどといったデーターを指針にするのではなく、TYPE-MOONとの打ち合わせで得られる「プレイヤーが盛り上がる空気感」を感じ取り、そこで得た自分たちの感覚を信じて開発運営を行っているとのこと。
たとえば、1周年を迎えた際に実施した施策のひとつとして、課金金額を25%恒久的に値下げする、キャラクター所持枠の課金要素を撤廃し、課金したプレイヤーには返却対応する、そして、『FGO』屈指の人気キャラクターをガチャではなく無料配布するといった施策を行ったとのことだ。
これらはすべて、「『FGO』プレイヤーがどうすればびっくりするくらい喜んでくれるのか」という点を考えたからだという。課金要素を減らすことは、売り上げに当然直結する問題であり、一歩間違えればゲーム自体の未来を左右することになりかねない。『FGO』でも、一部ファンから「終了するための閉店セールか!?」との声が上がったと笑う塩川さん。だが、そこまでびっくりする施策を実施しないとファンの本当の喜びには繋がらないし、話題になることはないと語る。
「Fate」の世界観に没入するのに必要なのはソーシャルではなくパーソナル
「Fate」の魅力は物語とキャラクターなどが織りなす世界観という塩川さん。『FGO』でも、すべての面において世界観を壊さず、世界観に浸ってもらう施策を行っているとのこと。
そのために、『FGO』に登場するキャラクターにはすべて役割を持たせ、ボイスをつけ、イラストを描き起こして作りこんでいるという。これは、レアリティが高いものだけでなく、手に入りやすいキャラクターも同様だ。
レアリティによって、ステータスは異なるが、全キャラクターに役割を持たせることで、活躍の機会をあたえる。これは、作品のファンが好きなキャラクターがゲームでは使えないシチュエーションを作ってしまうと作品への没入感が薄れ、作品世界から遠ざけてしまう結果になるからだとのこと。
ほかにも、コラボイベントはTYPE-MOONの作品に限定して実施したり、TVCMでもタレントを使うのではなく、アニメーションで表現している。これは、コラボイベントもTVCMも作品の一部としてとらえているからだ。
そして、「Fate」の世界観にひとりで没入してほしいからの施策だからだとのこと。世界観を壊す施策はせず、作品のイメージを膨らませる施策をとることがファンをより没入させていくことにつながっていると続ける。
すべてのイベントは新規に開発!それが話題を呼び、飽きさせないゲームになる
上述した、ように作品世界を壊さないような活動をしているために宣伝活動なども多くはない作品だと塩川さんは語るが、新しいイベントを実施するたびにファン間で話題になり、それが伝播することで新たなファンを呼ぶ形になってきているそうだ。
ただ、イベントを実施するたびに新しいゲームを作るのと同様の労力が必要になるため、間が空いてしまったり、開発陣は悲鳴をあげると苦笑いする。
『FGO』は「純粋に面白いゲームをつくろう」とした結果、ソーシャルゲームの常識を全否定する
ほかにも、全キャラクターが最大LVである100に到達できるようにしたり、アップデート毎に一石を投じるものを実施してきたという。賛否含めた大きな反響があったそうだが、それくらい大きな衝撃を生み出さないと、話題にならず、実施する意味がないと語る。
そして最後に塩川さんは「『FGO』は、「Fate」のIPを利用したソーシャルゲームではなく、TYPE-MOONの新作RPG」であると語る。その新作RPGを作っていくことで、従来のソーシャルゲームの枠を否定した非常識な運営、企画、開発になってきたとのこと。
これは、「より、Fateらしく」と突き詰めた「よりFateとして純粋に面白いゲームをつくる」というテーマに沿って作った結果だ。そして、塩川さんは「Fateという部分を自分の作品に置き換えて作品作りに生かしてもらいたい」と語り講演を終えた。