『Downwell』もっぴん“知識0から1週間でひとつのペースでゲームを作り続けた”|シシララ安藤武博のインディーズを見ずに死ねるか!#3

2015年10月09日

 『拡散性ミリオンアーサー』など、数々のヒットタイトルをプロデュースしてきた安藤武博氏。その安藤氏が古巣の株式会社スクウェア・エニックスから独立し、10月に株式会社シシララを立ち上げ、現在ゲームDJとして活躍中。本連載はそんな安藤氏が気になるクリエイターを直撃するというもの。第一回目は『Downwell』で世界的に注目を集めているインディゲームクリエイターのもっぴん氏だ。

 対談の3回目では声楽家を志していたもっぴん氏が、なぜゲーム開発を始めるようになったのか。そしてIGFでのノミネートやPAX EASTの出展など、海外でのイベント出展について迫っていく。

『Downwell』もっぴん“知識0から1週間でひとつのペースでゲームを作り続けた”|シシララ安藤武博のインディーズを見ずに死ねるか!#3
▲もっぴん氏が現在開発中の『Downwell』。公式サイトからゲームイメージをパシャリ

オペラ歌手か音楽の先生か人生は二者択一だと思っていた

★もっぴん氏:
前回お話ししたように、ゲーム音楽の作曲家になりたくて帰国し、音楽高校の門を叩いたんです。
ただ、そこはピアノ科にバイオリン科にと、いろんなコースがあるんですが、作曲科がなかった。

★安藤氏:
そこが重要なのに!

★もっぴん氏:
体験入学で知って軽く絶望しました。
でも音楽理論などを学びたいから、どこの科でも良いので入りたいんですと言ったら、楽器ができないと入れないといわれて。
何とかならないですかと聞いたら、「歌でもやれば良いんじゃない」と言われました。
それで声楽をはじめたら学校にも入学できて。
適当に歌を続けていたら、わりとできちゃったんですよ。

★安藤氏:
それもすごい話ですね。

★もっぴん氏:
それで高校2年生のころ、周りの人たちから「お前は芸大に入れるかも」と言われ始めて。
僕も「なんか才能あるのかな」と思うようになり、ひょっとしたらこれが自分がすべきことなのかもしれないと思い始めたんです。
その頃は作曲の勉強なんて何もしてなかったですね。
適当にゲームをしながら歌の勉強をする毎日だったんですが、芸大も合格してしまって。
卒業したらオペラ歌手になるべきなのかなと思っていたんですが、いざ芸大に入ってみたら、まわりがみんな大したことなかったんですよ。

★安藤氏:
(爆笑)

★もっぴん氏:
超、適当にやってるやつらばかりで。
いちおう東京芸術大学といったら、この分野で日本一の学校じゃないですか。
だから最高の環境でみんな歌がヤバイ奴らばっかりかと思っていたら、全然違っていて。それで、単に入学できたことに関して何の指標にもならないと気づきました。

だって日本人のオペラ歌手って誰も知らないでしょう?
僕も勉強していましたが、誰も思いつかないですもん。それくらい無謀なことだし。

★安藤氏:
もっぴんさんは声楽をまわりよりも打ち込んでいた?

★もっぴん氏:
そうですね。どうせやるなら、とことんやろうと思っていたので、ここまで来たらオペラ歌手か音楽の先生か二者択一くらいの意気込みで。
でも、その一方でゲームはめっちゃやってたんですよ。
それで大学3年生になって「おれ、オペラ歌手になりたくないぞ」と思ってしまったんです。
ステージの上で課題曲を歌う試験があるんですが、イタリア語で「若い娘に恋をした」みたいな歌詞なんですよ。
よく考えたらめっちゃシュールだなと。おれ日本人なのに何をやってるんだと。
それで芸大の勉強をやめよう、人生一回しかないんだから、やりたいことをやろうと思ったんです。

『Downwell』もっぴん“知識0から1週間でひとつのペースでゲームを作り続けた”|シシララ安藤武博のインディーズを見ずに死ねるか!#3
▲もっぴん氏

★安藤氏:
日本の学校制度に乗っかって、大学まで行ったんだけど、進路を迫られるようなタイミングが近づいてきて、オペラじゃないなと。

★もっぴん氏:
そのころ『Ridiculous Fishing』というゲームがiOSでリリースされたんです。
XBLAでもインディゲームがどんどん増えていて、少人数で作ったゲームがヒットしている状況もネットで知っていました。
それで「自分もがんばったらいけるんじゃないか」と思い始めまして。
ダメかもしれないけれど、せめて当たって砕けたほうが、もやもやしながらオペラ歌手や音楽の先生になるよりはましだと。プログラミングとか全然できなくて無謀かもしれないけれど、せめて試してみようと。

毎週1本ゲームを作って、13本目が『Downwell』だった

★安藤氏:
そこでゲームの作曲家にはなぜいかなかったの?

★もっぴん氏:
実はそれも妥協だったんですよ。
もともと数学が苦手で、ゲームプログラムは天才がやる仕事だと思っていて、試しもしないうちにプログラミングだけは無理と決めつけていたんです。

★安藤氏:
本当は「作れるものなら作る方に行きたい」と思っていたけど、そこで妥協が入って音楽の方に行ってしまって。
もう一回、初心に戻ってがんばってみようと。
でも、そこで後ざさえになったものはなんですか? 

★もっぴん氏:
そのころ「GameMaker」というゲームエンジンがリリースされていて、ちょうどセール中だったので、買っておいたんですよね。
でも、やらなきゃと思いつつも、1年過ぎて大学4年生になってしまって。

★安藤氏:
ありますよね、ツールソフトを買っただけで満足しちゃって、何もしないというのが。ゲームだけじゃなくて、絵でも音楽でも何でもある。

★もっぴん氏:
超あせってしまって、勝算も何もなかったんですが、授業を減らしてゲーム作りの勉強を始めたんです。
芸大を卒業したらアルバイトをしながら、ひたすらゲームを作り続けようと思っていたくらいで。
当時ゲームの記事を漁っていたら、『Ridiculous Fishing』の制作者がゲームデザインを志すなら1週間に1個ゲームを作れと書いていたんですね。
それで3月から毎週、GameMakerでゲームを作り始めたんですよ。
クソゲーを量産していました。

★安藤氏:
GameMakerって、ずぶの素人がいきなり作り始めて、1週間でゲームが作れちゃうものなんですか?

★もっぴん氏:
根性次第ですが、わりとすぐ動きますね。
かなりユーザーフレンドリーで、初心者でもドラッグ&ドロップでロジックが組めちゃうんですよ。

★安藤氏:
グラフィックのアセットもたくさんあるんですか?

★もっぴん氏:
それはなかったですね。だから適当に○とか描いて。
初めてみたら、キャラクターが画面上に描画されて、カーソルキーを押したら動くということろに1日目で到達して。
その時点で大感動したんですよ。何これって。世界を作ってるやん、みたいな。
そこから超たのしくなって、とまらなくなって、1週間にひとつのペースで作って、12週間それが続いたんですよ。

★安藤氏:
ちなみに1日のあいだ、どれくらい制作に費やしていました?

★もっぴん氏:
いちおう大学には週3回のペースで通っていたんです。
バイトも入れていたので、平均して1日2ー3時間くらいかな。でも、何もない日は一日中やってましたね。
それで13周目に作ったのが『DoenWell』のプロトタイプです。
ひたすら降りていく系のジャンプアクションを作ろうと思ったのがきっかけです。
その上でアイテムを入れまくっていたんですよ。
ダブルジャンプができるアイテムが時々出てくるよとか。それで、ある時に思いついたのがガンブーツだったんです。ジャンプしたら下向けにガンが打てるという。

★安藤氏:
いま『Downwell』に入っている仕様ですよね。あれがすごい特徴的で。
あのゲームはまさにあれだ!という感じなんだけど。

★もっぴん氏:
ほんとそれですね。
あのアイテムを入れたところで、これはめっちゃおもしろいと思って。
これは1週間以上、時間をかける価値がある。とりあえず1ヶ月かけようと思って。気がついたら1年以上になってます。

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▲安藤氏

黒と赤のグラフィックに統一したのは「手抜き」の産物

★安藤氏:
じゃあゲームを作り始めて1年と3ヶ月なんですね。おもしろいなあ。

★もっぴん氏:
作り始めて3ヶ月くらいで、動画を投稿したらDevolverDigitalから連絡が来たんですよ。

★安藤氏:
めちゃくちゃユニークでいいなあと思うんですが、印象的だったのがバーチャルボーイみたいに、黒と赤の世界観だったことですね。
あの理由はなんですか?

★もっぴん氏:
要は手抜きなんですよ。1週間にひとつゲームを作っていて、グラフィックのアセットも自分で描いていたので、フルカラーだと時間がかかり過ぎちゃうので。

★安藤氏:
あれってドット絵ですよね?
ドット絵はどうやって習得したんですか?
前にも「『ロックマン』とかすごく好きでしょう? エフェクトの出方がすごく似ている」と聞いたら、「遊んだことがないんです」と言われましたよね。
なんでこんな手触りになっているのかなと思って。

★もっぴん氏:
海外のインディゲームの影響はありますね。
あと大学に出ても、もはや勉強をする気がなかったので、授業中にラキガキをしまくっていたんですよ。
それで少しは画力がアップしたのかな。

★安藤氏:
でもドット絵と普通の絵だと、求められる画力が少し違うじゃないですか。
イラストから方眼紙にドットを落としこんだりしていましたか?

★もっぴん氏:
全然やってないですね。
マッチョなキャラクターとかを適当にシャープペンシルで描いていただけで。

★安藤氏:
実際、ドット絵がすごくいけてるなと思っているんです。
残像の感じとかも、すごくいいよなあ。
なんでデビュー作でドットまで打てるようになったのか、すごく不思議です。
何かお手本とかありました? 天才ということ?

★もっぴん氏:
それはないと思いますが、めっちゃゲームをしまくっていたので、こういう表現がかっこいいよなというイメージがありましたし、実際にゲームを遊びながら、動きをまねたりもしました。

★安藤氏:
音楽はちなみに・・・

★もっぴん氏:
僕じゃないです。
音楽と効果音はそれぞれ別の人にお願いしています。
結局音楽を作ってないですね(笑)

★安藤氏:
そこもおもしろい。

★もっぴん氏:
本当は音楽も自分で作りたくて、ファミコンの音源で音楽が作れるソフトを入手して勉強したんですよ。
でも時間がかかりすぎると思って。それでパブリッシャーに相談したんです。
ちょうどその頃、GDC2015でIGF(インディペンデント・ゲーム・フェスティバル)のファイナリストに選ばれたんです。
そこでDevolverDigitalのパーティがあり、作曲家を紹介してもらえたんですよ。
その方が『Spelunky』『Ridiculous Fishing』の作曲家で、どちらも大好きなゲームだったので、マジすか、夢ですよみたいな感じでした。

★安藤氏:
どこの国の人なんですか? 

★もっぴん氏:
ノルウェー人です。

★安藤氏:
北欧の人なんだ。北欧はいいクリエイターがいっぱいいますよね。『Downwell』の音楽もめちゃめちゃいいし。あれだけ人口が少ないのに、パッケージゲームでもスマホゲームでも、北欧発の名作は多いんですよ。Unityとか、ツールやユーティリティなどもそうですよね。

世界中の「才能」をアメリカ人が買っていく

★編集部:
ちなみにIGFに応募されたきっかけは何でしたか?

★もっぴん氏:
ダメもとで応募してみようと。
ホントにノミネートされるとは思っていませんでした。せっかく賞があるし、刺激にもなるし。その後でPAX EASTにも出展したんですが、あれはDevolverDigitalから応募しとけと言われまして。
運良く選出されて、それで出展した感じです。

★編集部:
最高のストーリーでしたね。
IGFで評価され、作曲家を紹介してもらえて、PAXにも出展できて。

★安藤氏:
おもしろいですね。効果音も同じ人ですか?

★もっぴん氏:
それはまた別の方です。
その方もインディゲームに携わっている人の中で、効果音でかなり名前が売れている方です。

★安藤氏:
どうやってコミュニケーションしているんですか?

★もっぴん氏:
ほぼメールとスカイプですね。

★安藤氏:
なるほど。
実はスカイプもスウェーデンで生まれたツールなんですよ。北欧の人が開発して、アメリカ人がばーっと買っていく。
そういう歴史が繰り返されていますね。

★編集部:
そういう意味では『Downwell』も日本人のもっぴんさんが作って、アメリカ人であるDevolverDigitalが買うわけですよね。

★安藤氏:
たしかに。RPGのキャラクターみたいな役割分担が国際的に生まれているのかもしれませんね。

★編集部:
サーフィンはハワイの先住民の遊びでしたが、ハリウッドで映画化されてブームになりました。ジャズもアメリカ南部の黒人音楽がルーツ。ビートルズもアメリカ上陸後にメジャーになりましたよね。

★もっぴん氏:
最後にアメリカがとっていく。

★安藤氏:
そのように考えると、さっきのKickstarterの話も説明がつきますね。
アメリカはRPGで「買う役」なんですね。
だったら自分たちのロールプレイ、つまり役割を意識した方が、インディでは楽しくゲームが作れるかもしれないですね。
クラウドファウンディングみたいな仕組みを日本で大きく育てようとするよりも、国際的な役割分担をしたほうがいい。それはたしかに今日、気づいたことですね。

★もっぴん氏:
DevolverDigitalと契約するまでは、芸大に通ってバイトもしていたんですが、契約後は開発資金を提供してくれるということになったので、バイトも辞めて大学も行かなくなったんですよ。
ただ退学届を出す直前になって、両親から「休学で良いんじゃない」と提案されて、それもそうかなと。
だから厳密にいえば今も学生なんですが、それだとセコいので、フリーランスだという意識でゲームを作っています。

★安藤氏:
じゃあ、最近は『Downwell』を作る毎日ですか?

★もっぴん氏:
ホントそれですね。めっちゃやってます。朝から深夜までずっとです。

★安藤氏:
今日もお持ちですが、開発はMacでやっているんですか?

★もっぴん氏:
そうですね。BootCampを入れて、Windowsで開発しています。GameMakerはWindows版しかないんですよ。
ただiOS向けにエクスポートする時に、Windowsで起動しながらMacに接続して、Macから出力しなくちゃいけなくて、それでMacを買ったんですよ。

★安藤氏:
今はどんなところを磨かれているんですか?

★もっぴん氏:
長く遊んでもらえるように、プレイの度にポイントを貯めるなどして、リプレイバリューを高めています。

★安藤氏:
もっぴんさんだと、どれくらいでクリアできるんですか?

★もっぴん氏:
15分くらいですかね。やっぱり一人だと作れる規模に限界があるので、何度も繰り返して自分なりに攻略ルートを発見してもらって、だんだん上手くなっていく感じを体験してもらいたいなあと。
でも理不尽な難易度にはしたくないんですよ。

★安藤:
意外と手触りがPCとスマートフォンでも変わらないからびっくりしました。

★もっぴん氏:
ですよね。
でも、けっこうユーザーで意見が変わるんですよ。コントローラの方がおもしろいという人もいれば、スマホの方がやりやすいという人もいて。
若い人がスマホの方が遊びやすいと言ってくれるんですよね。
僕は断然コントローラーの方が遊びやすいんですが、そういってもらえるのは嬉しいです。スマホでの操作にも時間をかけたので。

(次回に続く)

■もっぴん 関連リンク
▽『Downwell』公式サイト
http://www.downwellgame.com/

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