警視庁の地下5階。常識では考えられない不可解な事件が記録されたファイルの書棚が立ち並ぶ警察史編纂室。そこが警部補・風海純也の勤務先だ。
彼の仕事はオカルトじみた事件ファイルについて、起こりえる可能性を確かめて、正しく分類・整理すること。編纂室のメンバーは風海のほか、一日中、仕事もせずにテレビを見ていることもあるギャンブル好きのボス・犬童蘭子警部と、刑事の貫禄たっぷりだが、階級に従って年下の風海を先輩と呼ぶ小暮宗一郎巡査部長の二人だけだ。
仕事も一通り片付き、帰宅しようと警視庁のロビーに出た風海と小暮は、偶然、風海の高校時代の同級生で初恋相手・橘 雪乃と出会う。彼女は自殺した夫の遺品を受け取りに来ていた。雪乃を自宅まで送ることにした風海たちは、車内で高校時代の話から雪乃の仕事の話、夫との出会い、そして自殺までの経緯を聞くことになった。
夫の自殺は、夫婦で経営していた画廊が倒産して破産したことが原因らしい。その日、雪乃がバイトから自宅アパートに帰ると夫が首を吊っていた、と、雪乃はまるで壊れた蛇口のように言葉を漏らしていた。
雪乃を送った風海と小暮は、そのまま雪乃のアパートに招かれたが、自殺に使われた部屋だからなのか、小暮は落ち着かない様子だった。そのため、雪乃の夫の仏壇に手を合わせた後、トイレに立とうとした小暮は不注意で部屋の鏡を割ってしまう。
だが、「そこに奇妙があった……」
鏡があった場所の壁に「染み」が浮かんでいた。見方によっては暗褐色一色で描かれた不気味な女の絵のようにも見える。割れた鏡を片付けていた雪乃は、染みのような絵を特に気にする様子を見せない。染みを凝視していた小暮は、我に返ると一目散にアパートを飛び出していた。
雪乃のアパートから出て車に戻ると、小暮は真っ青な顔をしながらアパートを睨んでいた。小暮は雪乃のアパートに入った後、明らかに急に息苦しさや吐き気を感じたという。さらに錯覚かもしれないが、壁の染みの方からの視線も感じたらしい。そのときは気付かなかったが、鏡の裏には中身のない御札さえも貼ってあった。
「春日さんのご主人は、本当に自殺だったのでありますか?」
夜の帳が下りた中、アパートは雪乃の部屋だけ、頼りない電灯がともっていた……。
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