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磨き上げられた珠玉の物語。PS2『Fate/stay night』プレイレビュー
2007.05.15
関連URL:『Fate/stay night [Realta Nua]』公式サイト
   
 

 2007年4月19日(木)に発売されたPS2『Fate/stay night [Realta Nua](フェイト/ステイナイト レアルタ・ヌア)』は、2004年1月にPC用アダルトゲームとしてリリースされた『Fate/stay night』をブラッシュアップした伝奇活劇ビジュアルノベルアドベンチャー。PC版の発売から3年を経た現在でも多くのファンの心を掴み続け、また2006年より放映された同名のテレビアニメで、アニメ・声優ファンにまでその影響を広げていった。

 PS2版『Fate』は基本的に、PC版の一部演出を強化、オープニングアニメの追加、性的な描写や残虐シーンをCERO(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)のCレーティング(15歳以上対象)にあわせたものに変更、アニメ版と同じキャストによるフルボイス化、を行ったものとなる。PC版からコンシューマーへの移植タイトルで多く見受けられる、新規キャラクタの追加や新シナリオの大幅な追加などは行われていない。ただし、本編とは別に「Last Episode」というショートシナリオが追加されている。「PS2版のみで堪能できる新要素」という一面だけを見ると、「Last Episode」はあるものの、他の移植タイトルよりも注目点が少ないと受け取られることも否めない。
  声優陣によるボイスの追加は、アニメ版やPS2版で初見のユーザーにとっては注目すべき内容といえるが、現在は作家としても活躍中の奈須きのこ氏によるシナリオ・文体は「小説的」であり、ボイス追加はこのテンポと魅力を削ぎ落とす「諸刃の剣」と危惧するファンも少なくなかった。

 結果として、PS2版『Fate』とPC版『Fate』、その「本質」は変わらない。だが、3つの本編シナリオとPS2版のみで堪能できる「Last Episode」を体験すると、PS2版とPC版は「異なる作品」と感じられた。では、プレイして感じた「差異」とは何なのか?今回はそれを述べていきたい。

■「理想」の大切さを綴る英雄譚
 『Fate』は、日本の某都市・冬木を舞台に「手にした者は、どのような願いでも叶えられる」という「聖杯」を巡る人々の運命を描く約2週間の物語。「聖杯」を巡る争い「聖杯戦争」では、「聖杯」入手を目指す魔術師・マスターと英雄の霊体であるサーヴァントが契約を行い、他の6人のマスターとサーヴァントを倒すために戦っていく。
  PC版、PS2版とも物語の根幹、本質に違いはない。本作の主人公は、偶然に少女姿のサーヴァント・セイバー(剣士)のマスターとなった魔術師見習いの少年・衛宮士郎。士郎は「困っているすべての人々を救い、幸せにしたい」「すべての人が救えないのであれば、自分の目の前にいる人だけでも救いたい」という理想(正義)を抱く人物。
  そして、本作では「聖杯戦争」におけるマスターとサーヴァントの戦いが描かれつつ、士郎が「理想」を貫くとはどのようなことなのか、「理想」から導き出される結末は何なのかが、「Fate」「Unlimited Blade Works」「Heaven's Feel」という3つの物語で綴られていく。

 「Fate」は、士郎が自分の「理想」を貫き通してセイバーと一緒に「聖杯戦争」を戦い抜いていく王道的な戦闘ファンタジーストーリー。士郎は「揺るぎない「理想」と「正義」を以って人を救っていくが、この過程で自己の「理想」に捕らわれすぎることのない人物へと成長する。
  「Fate」のプレイ後に出現する「Unlimited Blade Works」では、学園のアイドルであり魔術の名門の後継者である遠坂 凛と共闘していく。戦いの中で、士郎は「理想」のまま歩み続けて辿り着く「ひとつの結末」を知ることになる。そして、「理想」の先にある「困難」と「絶望」を知った後でも、尚「理想」に生きる強さを持つことになる。
  そして、上記2つの物語を順次クリアすることで体験できる「Heaven's Feel」は、士郎と家族同然の付き合いである後輩・間桐 桜との物語。ここでは冬木の地で行われる「聖杯戦争」の核心が描かれつつ、士郎が「すべての人を救う」という「理想」を決して貫くことができない「現実」と直面し、自分の生き方の根幹を成す「理想」を捨て、新たな道を選ぶ姿が描かれる。

 「Fate」「Unlimited Blade Works」「Heaven's Feel」では、それぞれの物語で、それぞれの成長を遂げる士郎を見ることができる。そして、それぞれの物語の結末には優劣はない。人知れぬ闇夜で繰り広げられる「聖杯戦争」という世界で語られる士郎の成長物語は、現在の「英雄譚」といえるだろう。


■フルボイス化で物語の臨場感が大幅アップ
 PS2版とPC版のストーリーには細かな変更点はあるものの、その根幹を成すものには変わりはない。だが、その細かな違いがPS2版とPC版の印象を大きく変えている点も否定できない事実として存在する。

 PS2版に関して多くのファンが気になるのは、キャラクタのフルボイス化と、CEROのCレーティングにあわせた性的描写及び残虐シーンの変更点、の2つと思われる。

 本作のキャラクタボイスは、士郎を演じる杉山紀彰、セイバー役の川澄綾子、凛役の植田佳奈、をはじめとする全キャラクタが既に放映を終了したアニメ版と同じキャストとなっている。アニメ版とゲーム版ではストーリーが異なるものの、既知のキャラクタを再び演じているだけあって、キャラクタの個性を掴みきった演技でストーリーを盛り上げている。
  時に実直すぎるセイバー、そこかしこでツンデレな凛、「Heaven's Feel」で垣間見られる桜(CV:下屋則子)の「光」と「闇」、天真爛漫なイリヤ(CV:門脇舞以)など、声が追加されたことでPC版以上に人間味溢れる姿が堪能できる。特に、アーチャー(CV:諏訪部順一)とランサー(CV:神奈延年)というふたりのサーヴァントと、監督役の神父・言峰綺礼(CV:中田譲治)は、強烈な存在感と個性がボイスの追加によって更に際立ったといえる。

 レーティングによるシーン変更は、15歳以上対象とするC区分で表現できる範囲内に収まるようになっている。PC版では、士郎がセイバーに魔力を供給する方法は性行為となっていたが、PS2版では士郎が体内に持つ魔術回路をセイバーに移植してセイバーに魔力を与える、とされた。そして、凛から士郎への魔力の分配も同様の魔術刻印の移植に置き換えられている。これらのシーン変更は、理屈としても適っており、ストーリー的にも自然な流れとなっている。また、士郎がセイバーに思いを告げる場面では純愛的な表現、弱った桜の体を維持させるシーンは桜が士郎の血を吸う、と改められている。
  一方、戦闘シーンなどの暴力系の描写では、テキストによる修正等が行われているが、多くのプレイヤーはPS2版の表現でも充分に緊迫感や恐怖感を覚えることだろう。この変更も納得できる範囲といえる。
  そして、最大の変更点は「Heaven's Feel」における桜の物語の扱い。PC版では桜が受けてきた辛い日々が克明に語られていくが、PS2版では「心が壊れるような日々を過ごしてきた」と触れられるのみで、具体的な事象に関しては明記されない。この部分は桜の物語の根幹を成すものであり、新規シナリオで差し替えると「Heaven's Feel」が物語として成立しなくなる。この内容をどうしても知りたい場合は、PC版で確認するしかない。
  レーティングにあわせたシーン変更は、あくまで最低限、そしてストーリーとして納得できるものに抑えられている。ハードな描写も『Fate』の魅力であるが、一般向けの内容に改められたPS2版でも、その魅力が陰ることはない。

 PC版は、当時のPC作品としてはエフェクトなどの演出面にも力が入れられていた作品だが、PS2版では、より一層のパワーアップが図られた。セイバー対ギルガメッシュでの宝具激突時の威力を示す公園の全景、「Unlimited Blade Works」におけるアーチャーの弓射シーンをはじめ、戦闘シーンなどにも多くの新規イベントCGが追加され、またサーヴァント同士の剣や槍の軌道も鮮明かつ美しく描画されている。
  全体として「見せる」「魅せる」CGが追加されたことにより、PC版の小説的な読み物としての雰囲気よりも映像的な作品となったので、PC版のユーザーでも音声追加による違和感を覚えることは少ないと思われる。
  ちなみに、戦闘シーンは「Config」で「エフェクト瞬間表示」とすることで攻撃モーションや武器同士の激突場面などがスピーディに描画され、瞬間で決着がつくサーヴァント同士の戦いがより臨場感を持って堪能できる。

 PS2版には、オープニングムービーが追加されている。このムービーは「Fate」「Unlimited Blade Works」「Heaven's Feel」ごとに用意され、それぞれ各ストーリーの見どころがアニメーションで再現されている。つまり、初回プレイ時にはネタバレとなる場面を見ることになるので、「あえてムービーを見ない」という選択も充分に検討するに値する。なおオープニングムービーはストーリーの半ば、及びメイン画面で一定時間が経過すると流れるようになっている。


■もう一つの『Fate』。「タイガー道場」と特典『トラぶる花札道中記』
 PS2版の追加要素には上記のほかにも、BAD END(DEAD ENDを含む)で到達するミニコーナー「タイガー道場」の回想モードの実装がある。
  「タイガー道場」は、正しい選択肢を教えてくれる救済コーナーだが、クールな本編のイメージを大幅に損なうものとなる。司会は士郎の姉貴分である教師・藤ねえとイリヤが務めるが、本編よりもパワーアップした藤ねえ=タイガーと体操着&ブルマ姿のイリヤがコント風の会話でプレイヤーにBAD ENDの回避方法を教えてくれる。

 ちなみに『Fate』のBAD ENDの大半は、直前の選択肢で他の選択に進むことで回避でき、「タイガー道場」に到達するBAD ENDはPC版と同じく全40となる。3つの本編と5つのエンディング(「Unlimited Blade Works」と「Heaven's Feel」には、True EndとGood Endが用意されている)をクリアした後には、「タイガー道場」のコンプリートを目指してみよう。本作ではメッセージスキップやシーンスキップが可能なので、BAD ENDの回収作業はさほど苦にならない。

 そしてPS2版の[extra edition]に特典として付属するPSPソフト『とびだせ!トラぶる花札道中記』は、タイガーとイリヤが「タイガー道場」と同じノリで活躍する花札ゲーム。本編とはちょっと異なる展開で、ふたりがライバルとして立ちはだかるマスターやサーヴァントを倒していく。
  全キャラクタともハイテンションで、本編とは明らかに異なる性格の人物も登場するので、本編『Fate』の世界が好きなユーザーは、覚悟しておく必要がある。また、キャラクタの会話には本編に関連するものが多いというか、本編でのキャラクタ&イベントいじりが大半なので、本編をクリア後にプレイしないと「?」が連発して心の底から『トラぶる花札道中記』を楽しむことはできない。
  なお花札のルールは「こいこい」で、難易度はそれほど高く設定されていない。また「宝具」を用いた必殺技もあり、花札初心者から熟練者まで人を選ばず気軽に楽しめる。


■PC版は「原石」。PS2版は「原石」を磨き上げた「宝石」
 『Fate』は、伝奇ストーリーならではの幻想的な世界観や、キャラクタの魅力が中心に語られることが多いが、さまざまな人物・サーヴァントの「信念を持った生き方」が単純、複雑に絡み合って綴られていく作品だ。何度も繰り返すことになるが、PC版もPS2版も作品の「本質」は何一つ変わらない。

 では、PC版とPS2版の「差異」とは何なのか? それはPC版を「原石」とすれば、PS2版はそれを加工した「宝石」という違いではなかろうか。音声や新規CGが追加され、多くのゲームファンがプレイしやすい環境で登場したPS2版は、洗練された「宝石」といえるだろう。PS2版の発売本数は、発売からわずか1週間でPC版の発売本数に迫る14万本弱に達しており、インターネット等の評判を見ても購入ユーザーの満足度も高いようだ。
  だが、PS2版が発売されたからといっても、PC版の魅力が弱まることはない。PS2版よりもなおダークな世界で繰り広げられる「聖杯戦争」は、「初めて生み出されたモノ」が放つ荒々しい輝きと存在感を今でも放ち続けている。実のところ、レビューにあたってPS2版をプレイしたことで、3年ぶりに再びPC版をプレイしたい衝動に駆られている。

 そして最後に、PS2版で追加された「Last Episode」について。内容の詳細は伏せるが、あるシナリオの流れを汲むものとなっている。その物語があるシナリオの時間の流れから続くエピソードなのか、誰かが思い描いた「夢」なのかは分からない。ただ、手に入ることのなかった筈の「幸せ」を掴むことができたシーンが、賛否は分かれるかもしれないが、手に入ることのなかった筈の「幸せ」を掴むことができたシーンに立ち会うことができたことは嬉しく思える。

 物語の好き嫌いはあっても、『Fate』で描かれる壮大な3つの物語「Fate」「Unlimited Blade Works」「Heaven's Feel」の世界に優劣をつけることはできない。それと同じく、PC版の『Fate/stay night』と、PS2版『Fate/stay night [Realta Nua]』で優劣をつけることはできない。
  そして、『Fate』の魅力を知ることは、やはり実際にプレイしないと分からない。すべての物語を音声を聞きながら体験するのには、100時間は有することになる。だが、その時間を費やして得られるものは、決して小さくないはずだ。


【スペック】
タイトル:Fate/stay night [Realta Nua]
ジャンル:伝奇活劇ヴィジュアルノベル
プラットフォーム:PS2
発売日:2007年4月19日(木)
価格:通常版7,140円(税込)/限定版9,240円(税込)
メーカー:角川書店
(C)TYPE-MOON/KADOKAWA SHOTEN PUBLISHING CO.,LTD.